日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-AE 天文学・太陽系外天体

[P-AE20] 系外惑星

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 105 (1F)

コンビーナ:生駒 大洋(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、成田 憲保(東京大学)、座長:生駒 大洋(東京大学)、成田 憲保(東京大学)

10:45 〜 11:00

[PAE20-07] スーパーアースのマントル対流シミュレーション

★招待講演

*宮腰 剛広1亀山 真典2小河 正基3 (1.海洋研究開発機構、2.愛媛大学、3.東京大学)

キーワード:スーパー地球、マントル対流、断熱圧縮

マントル対流は惑星表面のテクトニックな活動や内部の熱進化を支配している。それはプレート運動、物質循環、核の対流などの現象の駆動源ともなる。スーパーアース内部のマントルダイナミクスがどのようなものであり、また地球とどう異なるかは、それ自身興味深い惑星科学における問題であるが、加えてその理解は、スーパーアースの熱進化や表層環境を考察する上でも不可欠な要素の一つである。

地球とスーパーアースのマントルを比較した時、特に大きな違いの一つが、スーパーアース内部では強い断熱圧縮効果が働くという事である。地球のマントル内ではこの効果は比較的小さい為、地球のマントル対流を調べる際にはこの効果はしばしば無視される。しかしながらこの効果は惑星サイズに比例して大きくなる。その為、スーパーアースのマントル対流を調べる際にはこの効果を適切に考慮する事が必要である。本講演では、惑星サイズの増加に伴い増大する断熱圧縮効果を適切に考慮した数値シミュレーション結果(Miyagoshi et al., 2014; 2015; 2017; 2018)を紹介する。我々のモデルではまた、惑星サイズに比例して大幅に増加する(地球よりも遥かに大きな)レイリー数、温度依存粘性、圧力(深さ)依存熱膨張率を考慮している。

我々の計算結果からは、惑星サイズが増大するにつれで、コア-マントル境界から上昇するホットプルームの活動性が著しく弱められる事が分かった。対照的に、表層から沈降するコールドプルームは惑星サイズが増大しても活動性を失わない。また対流の熱輸送効率は、断熱圧縮効果を無視した場合(ブシネスク近似、地球のモデルで通常用いられる)に比べ、大きく減少する事が分かった。また10倍地球質量の惑星において、対流のレジームダイアグラムを見出し、固いリソスフェアが形成されるレジームとされないレジームの境界を同定した。

このような断熱圧縮の効果は、惑星質量が地球質量の4倍を超えた付近から顕著に見られるようになる。また、惑星質量が大きくなるにつれて、プレートは厚くなる一方、対流の流れの速さは殆ど変化しない。この結果は、断熱圧縮を無視した場合の予測と著しく異なる。この結果はスーパーアースのプレート運動の起こりやすさを考える上で大きなヒントを与えると考えられる。

我々はまた大きな(地球の10倍質量の)スーパーアースの熱進化過程を調べた。その結果、巨大スーパーアースでは、初期温度分布の影響が非常に長く続く(場合によっては数十億年以上)事が分かった。我々のモデルでは初期温度分布の一例として、マントルの浅い部分が(いくつかの惑星形成モデルで示唆されているように)、断熱温度勾配分布よりも熱い状態から出発すると仮定した。その結果、最終的な全層対流状態に至る前に、数十億年以上にわたって、初期温度分布に由来する過渡の二層対流の状態が続く事が分かった。その間、下層では活発な対流が生じるが、上層では表層からのコールドプルームが少しずつ下降してくるだけとなり、上層と下層が混合しない状態が長期間続く。

我々の結果からは、惑星サイズか増大するにつれて、プレート運動やホットスポット火山などのテクトニックな活動は生じづらくなる事が示唆される。また対流の熱輸送効率が弱くなるため、核の対流や惑星磁場もそれほど強くなれないと予想される。加えて、特に巨大なスーパーアースの内部活動や表層環境を考える場合、非常に長く続く初期温度分布の影響を考慮に入れる事が重要であると考えられる。