日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG21] 宇宙・惑星探査の将来計画と関連する機器開発の展望

2019年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:尾崎 光紀(金沢大学理工研究域電子情報学系)、笠原 慧(東京大学)、亀田 真吾(立教大学理学部)、吉岡 和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、座長:吉岡 和夫(東京大学)、尾崎 光紀(金沢大学)

09:20 〜 09:35

[PCG21-02] 月・惑星探査用TOF質量分析器の開発

*福山 代智1斎藤 義文2浅村 和史2横田 勝一郎3 (1.東京大学大学院、2.宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所、3.大阪大学)

キーワード:太陽系探査、質量分析器

惑星探査の対象となるような重力天体からのサンプルリターンは困難であるため、太陽系探査において、その場観測は重要である。中でも天体表面物質のその場での質量分析は、惑星表面岩石中の揮発成分や同位体組成に関する情報を取得することができるため、惑星大気の変遷や月・惑星の進化を理解するうえで欠かせない観測である。NASAの火星探査ローバー「Curiosity」やESAの彗星探査機「Rosetta」には天体表面物質のその場元素分析を行うための質量分析器が搭載されている。また、近年の月探査機による観測により、月極域永久影におけるH2Oの存在を示唆するリモートセンシングの観測結果が報告されているが、H2O とOHの判別が困難などといった問題を抱えているため、存在を断定することはできていない。水の存在を着陸機によるその場観測で実証するための質量分析器の必要性が高まっている。

制約が多い惑星探査機に搭載する質量分析器には小型・軽量であることが求められるが、小型軽量と高質量分解能を両立した、惑星探査用質量分析器はいまだ開発されていない。そこで我々は、月・惑星探査を想定した、小型かつ高質量分解能の中性粒子計測用TOF-MS(Time-Of-Flight Mass Spectrometer:飛行時間計測型質量分析器)の開発を進めている。本機器は、ローバーに搭載し、前段に試料の採取を行う機構部分と、採取した試料を加熱・気化する部分、さらに取り込んだガスをイオン化するイオン化部があることを前提に設計した。

TOF-MSはイオンを電場で加速し、一定の距離を飛行させその飛行時間から質量を求めるが、高質量分解能を実現するためには、イオンの飛行経路を長くとる必要がある。機器を大型化させることなく飛行距離を稼ぐため、イオンを電場によって反射させるリフレクトロン型TOF-MSを採用した。一方で、イオンの軌道はイオンの飛行距離が長くなるにつれて分散するため、反射回数を増やすと検出効率が低下する。そこで、本機器は高質量分解能の複数回反射モードと、反射回数を抑え感度を重視した1回反射モードを搭載し、観測対象ごとにこれらの測定モードを切り替えられるようにした。シミュレーションにより、3回反射モードでは質量分解能360、1回反射モードでは180を達成した。現在は装置寸法と印加電圧の最適化を慎重に行った上で、装置の総合的な性能を最適化した試験モデルの製作を進めている。
本発表ではTOF-MSの最適化の過程と試作モデルの設計、シミュレーション結果について報告する