日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG23] 宇宙における物質の形成と進化

2019年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 201B (2F)

コンビーナ:三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、野村 英子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、大坪 貴文(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、瀧川 晶(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:古家 健次日比谷 由紀

11:30 〜 11:45

[PCG23-10] アモルファスMg2SiO4微粒子を覆った氷の光化学反応によるフォルステライト結晶の生成

*香内 晃1木村 勇気1大場 康弘1羽馬 哲也1渡部 直樹1橘 省吾2土山 明3延寿 里美3大坪 貴文4 (1.北海道大学低温科学研究所、2.東京大学理学系研究科、3.京都大学理学研究科、4.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

キーワード:アモルファス珪酸塩、光化学反応、結晶化、フォルステライト

赤外線観測により,彗星の珪酸塩には結晶とアモルファス(非晶質)の双方が見つかっている.珪酸塩結晶の生成機構としては,次の可能性が考えられている:加熱によるアモルファス珪酸塩の結晶化,太陽系星雲での直接凝縮物の混合,有機物中のラジカル−ラジカル再結合時に発生する熱によるアモルファス珪酸塩の結晶化.本研究では,氷に覆われたアモルファス珪酸塩に紫外線が照射されて起こるラジカル−ラジカル再結合時に発生する熱による結晶化を実験的に調べた.

 誘導熱プラズマ法を用いたガスからの凝縮により作製した3種類のアモルファス微粒子,Mg2SiO4,MgSiO3,GEM組成のアモルファス珪酸塩,を用いた.これらアモルファス珪酸塩微粒子をアモルファスSi薄膜の上にのせ,それを超高真空透過型電子顕微鏡中で10Kまたは82Kに冷却した.その上にアモルファス氷薄膜を蒸着した.重水素ランプからの紫外線を照射し,構造変化を電子回折法で調べた.

 氷で覆われたアモルファスMg2SiO4に82Kで紫外線を照射した時にのみ結晶化(forsteriteの生成)が観察され,10Kでは何の変化も起こらなかった.さらに,アモルファスMgSiO3およびGEM様組成のアモルファス珪酸塩では,10Kでも82Kでも何の変化も観察されなかった.

 これらの結果は以下のようにして解釈できる.水分子は紫外線照射により分解される,

   H2O + UV --> OH + H. (1)

逆反応のラジカル−ラジカル再結合も起こる,

OH + H -->H2O + 4.8 eV. (2)

反応(2)は10Kでは非常に遅いが,82Kでは即座に起こる.反応(2)の4.8eVは,アモルファスMg2SiO4の結晶化エネルギー(3-4eV)より大きく,アモルファスMgSiO3の結晶化熱(9 eV)およびGEM様組成のアモルファス珪酸塩より小さい.
 以上の結果をもとに,彗星で観測されるforsterite結晶の一部は彗星コマ中で氷に覆われたアモルファスMg2SiO4に太陽紫外線が照射されて生成されると考えることができる.発表では赤外線観測との比較も述べる.