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[PCG23-11] 誘導熱プラズマ装置を用いたFe-Mg-Si-O-S系での凝縮実験:GEMS形成環境の解明に向けて
キーワード:GEMS、凝縮、誘導熱プラズマ装置
彗星塵にはGEMS(glass with embedded metal and sulfides)と呼ばれる、Fe-Ni金属と硫化鉄の微小粒子(約10-50 nm)を包有する直径100 -500 nm程度の非晶質珪酸塩粒子が特徴的に含まれている[1, 2]。GEMSは太陽系で最も始原的な物質の一つと考えられ、その起源を理解することは太陽系物質の起源を理解する上で重要である。星雲ガスにおける非平衡凝縮モデル[1]に基づいて、これまでGEMS模擬粒子の凝縮実験[2, 3]が行われているが、主要元素の一つである硫黄を含む系での系統的な実験は行われていない。本研究では、硫黄を含むFe-Mg-Si-O-S系において、酸化還元条件を系統的に変化させた凝縮実験によるGEMSの再現と、その形成環境の理解を目指している。
凝縮実験には誘導熱プラズマ(induction thermal plasma: ITP) 装置を用いた。この装置では、~104 Kの熱プラズマにより出発物質を蒸発させ、そのガスの急冷により微粒子を合成することができる。粉体試薬(SiO2, Si, MgO, Fe, FeS2)をGEMS平均組成Mg : Fe : Si : S = 0.7 : 0.6 : 1 : 0.3 (mol比)[1]となるように混合物したものを出発物質とし、ArとHeをプラズマガスとして用いて、圧力70 kPaで実験を行った。酸化還元雰囲気は、出発物質のSiO2/Si比および粉末供給量 (fd)によって変化する。本研究では、酸化還元雰囲気を変えた計10回の実験を行なった。得られた生成物は粉末X線回折装置 (XRD)、走査型電子顕微鏡 (SEM-EDS)、透過型電子顕微鏡 (TEM/STEM-EDS)を用いて評価した。
回収されたサンプルは主としての凝縮物であるナノ粒子と、粗粒(~10 μm)な蒸発残渣によって構成されており、XRDでも蒸発残渣由来とみられるピークが確認された。TEM観察により、凝縮物は10-100 nm程度の大きさの非晶質珪酸塩粒子からなり、その内側または表面にFeを含む数10 nmの大きさの微粒子を含むことが、全ての実験生成物において確認できた。各実験での凝縮物を構成する粒子は以下に示す5つのタイプに分類できた。
A:Feを多く含む非晶質珪酸塩粒子の内部にFe-metal微粒子を含む
B:Feを多く含む非晶質珪酸塩粒子の表面にFeS微粒子が存在
C:Feを多く含み、二相分離した非晶質珪酸塩粒子の表面にFeS微粒子が存在
D:Feに乏しい二相分離した非晶質珪酸塩粒子の表面にFeSで覆われたFe-metal微粒子が存在
E:Feに乏しい二相分離した非晶質珪酸塩の表面にFe3Si (gupeiite)微粒子がMgS (niningerite)またはFeS微粒子と共に存在
酸化的条件での実験では凝縮物は主にタイプA, B, Cの粒子で構成されており、中間的条件ではタイプA, Dで構成されていた。一方、還元的条件においてはタイプEの粒子のみで構成されていた。
均質核形成凝縮理論[4]を考慮し、本実験で合成された凝縮物の形成過程の推察を行った。基本のプロセスとして、どの実験においても最初に珪酸塩メルトが凝縮し、その後に他のFeを含む粒子が凝縮、最後に硫化物が形成されたと考えられる。酸化的な条件では、Feの少なくとも一部はFeOとして珪酸塩メルトに取り込まれ (タイプA, B, C)、ガス中のFeが少なくなったために、金属鉄は凝縮しなかったか、あるいは凝縮した少量の金属鉄が硫化されFeSが生成されたと考えられる(タイプB, C)。ガス中でのFe量が多い場合には、比較的高温で金属鉄が珪酸塩メルト表面に不均質核形成し、表面エネルギーのために硫化を受ける前にメルト内部に移動したと考えられる (タイプA)。一方、還元的な条件では、Feは非晶質珪酸塩メルト中にほとんど含まれない(タイプD, E)。タイプDでは、ガラス表面に不均質核形成し、その後一部が硫化を受けたものと思われる。タイプEは最も還元的な条件で、金属鉄の代わりにFe3SiやMgS, FeSが凝縮して生成されたものと考えられる。
本研究の実験では、GEMSの特徴の一部を持った粒子は生成されたが、全く同じ特徴 (比較的Feに乏しい非晶質珪酸塩内部に多数の金属鉄を含み、外側にFeSが位置する)を持つ粒子の生成は確認できなかった。本研究で提案した凝縮物の形成モデルを考慮するとGEMSは、タイプC-D程度の酸化還元状態にて形成されたと考えられる。その際、タイプAのように高温で金属鉄が珪酸塩メルト表面に不均質核形成してメルト内部に移動した後、ガラス転移点以下の環境にて非晶質珪酸塩表面における金属鉄の生成が続き、やがて表面で硫化を受けたと考えられる。
[1] Keller and Messenger (2011) GCA, 75, 5336-5365. [2] Matsuno (2015) Ph.D. thesis. [3] Kim et al. (2017) ISPC, 23, P2-33-7, abstract. [4] Yamamoto and Hasegawa (1977) Progress of Theoretical physics vol. 58, No. 3.
凝縮実験には誘導熱プラズマ(induction thermal plasma: ITP) 装置を用いた。この装置では、~104 Kの熱プラズマにより出発物質を蒸発させ、そのガスの急冷により微粒子を合成することができる。粉体試薬(SiO2, Si, MgO, Fe, FeS2)をGEMS平均組成Mg : Fe : Si : S = 0.7 : 0.6 : 1 : 0.3 (mol比)[1]となるように混合物したものを出発物質とし、ArとHeをプラズマガスとして用いて、圧力70 kPaで実験を行った。酸化還元雰囲気は、出発物質のSiO2/Si比および粉末供給量 (fd)によって変化する。本研究では、酸化還元雰囲気を変えた計10回の実験を行なった。得られた生成物は粉末X線回折装置 (XRD)、走査型電子顕微鏡 (SEM-EDS)、透過型電子顕微鏡 (TEM/STEM-EDS)を用いて評価した。
回収されたサンプルは主としての凝縮物であるナノ粒子と、粗粒(~10 μm)な蒸発残渣によって構成されており、XRDでも蒸発残渣由来とみられるピークが確認された。TEM観察により、凝縮物は10-100 nm程度の大きさの非晶質珪酸塩粒子からなり、その内側または表面にFeを含む数10 nmの大きさの微粒子を含むことが、全ての実験生成物において確認できた。各実験での凝縮物を構成する粒子は以下に示す5つのタイプに分類できた。
A:Feを多く含む非晶質珪酸塩粒子の内部にFe-metal微粒子を含む
B:Feを多く含む非晶質珪酸塩粒子の表面にFeS微粒子が存在
C:Feを多く含み、二相分離した非晶質珪酸塩粒子の表面にFeS微粒子が存在
D:Feに乏しい二相分離した非晶質珪酸塩粒子の表面にFeSで覆われたFe-metal微粒子が存在
E:Feに乏しい二相分離した非晶質珪酸塩の表面にFe3Si (gupeiite)微粒子がMgS (niningerite)またはFeS微粒子と共に存在
酸化的条件での実験では凝縮物は主にタイプA, B, Cの粒子で構成されており、中間的条件ではタイプA, Dで構成されていた。一方、還元的条件においてはタイプEの粒子のみで構成されていた。
均質核形成凝縮理論[4]を考慮し、本実験で合成された凝縮物の形成過程の推察を行った。基本のプロセスとして、どの実験においても最初に珪酸塩メルトが凝縮し、その後に他のFeを含む粒子が凝縮、最後に硫化物が形成されたと考えられる。酸化的な条件では、Feの少なくとも一部はFeOとして珪酸塩メルトに取り込まれ (タイプA, B, C)、ガス中のFeが少なくなったために、金属鉄は凝縮しなかったか、あるいは凝縮した少量の金属鉄が硫化されFeSが生成されたと考えられる(タイプB, C)。ガス中でのFe量が多い場合には、比較的高温で金属鉄が珪酸塩メルト表面に不均質核形成し、表面エネルギーのために硫化を受ける前にメルト内部に移動したと考えられる (タイプA)。一方、還元的な条件では、Feは非晶質珪酸塩メルト中にほとんど含まれない(タイプD, E)。タイプDでは、ガラス表面に不均質核形成し、その後一部が硫化を受けたものと思われる。タイプEは最も還元的な条件で、金属鉄の代わりにFe3SiやMgS, FeSが凝縮して生成されたものと考えられる。
本研究の実験では、GEMSの特徴の一部を持った粒子は生成されたが、全く同じ特徴 (比較的Feに乏しい非晶質珪酸塩内部に多数の金属鉄を含み、外側にFeSが位置する)を持つ粒子の生成は確認できなかった。本研究で提案した凝縮物の形成モデルを考慮するとGEMSは、タイプC-D程度の酸化還元状態にて形成されたと考えられる。その際、タイプAのように高温で金属鉄が珪酸塩メルト表面に不均質核形成してメルト内部に移動した後、ガラス転移点以下の環境にて非晶質珪酸塩表面における金属鉄の生成が続き、やがて表面で硫化を受けたと考えられる。
[1] Keller and Messenger (2011) GCA, 75, 5336-5365. [2] Matsuno (2015) Ph.D. thesis. [3] Kim et al. (2017) ISPC, 23, P2-33-7, abstract. [4] Yamamoto and Hasegawa (1977) Progress of Theoretical physics vol. 58, No. 3.