日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG23] 宇宙における物質の形成と進化

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、野村 英子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、大坪 貴文(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、瀧川 晶(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

[PCG23-P03] GEMS粒子の合成を目指したMg-Fe-Si-S-Al-Ca-Ni-O系での凝縮実験

*井村 悠登1延寿 里美1河野 颯1土山 明1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:GEMS、凝縮実験、Mg-Fe-Si-S-Al-Ca-Ni-O系

GEMS (Glass with Embedded Metal and Sulfide) は彗星由来の惑星間塵であるCP-IDPsの主成分である (Keller and Messenger, 2011)。GEMSは太陽系で最も始原的な物質の一つであると考えられており、その形成環境や形成過程の解明が、太陽系の起源を理解するうえで重要である。GEMSの起源については、星間塵が宇宙線の照射を受けて非晶質化したとする説 (Bradley and Dai, 2004)や、星周 (晩期型星星周あるいは原始惑星系円盤) でのガスの凝縮により生成されたという説 (Keller and Messenger, 2011)などがあるが、いまだ論争中である。先行研究では、星周ガスにおける凝縮過程を模擬した凝縮実験において、GEMS粒子に類似した微粒子が生成されている (Matsuno, 2015; Kim et al., 2017, 河野, 2019)。とくに、河野(2019)は主要元素からなる化学組成 (Mg-Fe-Si-S-O系)において、酸化還元雰囲気による生成物の系統的な変化を明らかにした。本研究では、これらの主要元素に次いで存在度の大きな元素 (Al,Ca,Ni)を含めたより天然に近い化学組成 (Mg-Fe-Si-S-Al-Ca-Ni-O系)において、酸化還元雰囲気を変化させて凝縮実験を行い、GEMSの形成についての理解を深めることを目指した。

凝縮実験には誘導熱プラズマ (ITP)装置を用いた。出発試料として、GEMSの平均組成比 (Keller and Messenger,2011)になるように試薬を混合した。その際、SiO2とSiの比の異なる粉体試料を3種類用意し、これらを出発物質として酸化還元雰囲気を変化させた実験を行った。分析には粉末X線回折装置 (XRD), 走査型電子顕微鏡 (SEM), フーリエ変換赤外分光光度計 (FT-IR), 透過型電子顕微鏡 (TEM)を用いた。

 XRDにより、非晶質珪酸塩によるハローパターンに加えて、酸化還元雰囲気の変化に従った鉱物のピークが実験生成物に認められた。FT-IRでも、非晶質珪酸塩による吸収が認められた。SEM観察によって、生成物は微細粒子 (数10~100 nm)の集合体である凝縮物と粗粒 (>~1μm)な蒸発残渣の大きく2種類に分けられることが分かった。そこで、TEM/STEM-EDSによる凝縮物の詳細観察に基づく考察を主に行った。

 凝集物はすべての実験条件で、河野(2019)の実験と同様に、数10~100nm程度のサイズを持つ球状の非晶質珪酸塩粒子の集合体と、そこに含まれる<~10nmサイズのFeやNiを含むナノ粒子からなる。その組織は、大まかには天然のGEMSに類似するが、実験条件により非晶質珪酸塩の化学組成やナノ粒子包有物の鉱物相が異なる。酸化的条件では、Feが非晶質珪酸塩中に比較的多く含まれ、少量の(Fe,Ni)合金やNiに富むFe,Niの硫化物がナノ包有物として生成された。還元的条件になると、非晶質珪酸塩中にFeはほとんど含まれず、少量のNiを含むFe3SiやFeSが包有物として出現した。一方、Al,Caは単独の鉱物相を形成することはなく、非晶質珪酸塩中にほぼ均一に含まれていた。

 天然のGEMSはFeの少ない非晶質珪酸塩と(Fe,Ni)やFe(Ni)の硫化物のナノ包有物からなり、今回の実験ではこれと同じ生成物は得られなかった。天然のGEMSは、今回行った酸化的条件と中間的条件の間の環境で形成されたことが予想される。