日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM12] Space Weather and Space Climate

2019年5月28日(火) 10:45 〜 12:15 A04 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:片岡 龍峰(国立極地研究所)、Antti A Pulkkinen(NASA Goddard Space Flight Center)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、坂口 歌織(情報通信研究機構)、座長:坂口 歌織

11:45 〜 12:00

[PEM12-35] 2004年11月7-8日に発生した磁気嵐に伴う午後側から夕方側における全球全電子数の極端な増加について

*惣宇利 卓弥1大塚 雄一1新堀 淳樹1津川 卓也2西岡 未知2 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所、2.情報通信研究機構)

キーワード:電離圏、磁気嵐、全電子数、磁気共役

磁気嵐時に中緯度電離圏で発生するstorm enhanced density (SED) は、午後側において局所的に増加した電子密度の領域が低緯度から高緯度に伸びる現象である。Foster and Rideout [2007]は、SED現象が両半球において磁気共役性を持つことを報告した。今回、2000~ 2012年の磁気嵐イベントの中で日本において最大のTEC増加を示した2004年11月8日に発生した磁気嵐中のSEDの解析結果について報告する。Maruyama [2006]は日本の稠密GPS観測網のデータを用いて2004年11月8日に発生した磁気嵐においてTotal Electron Content (TEC)が増大することを示し、夕方過ぎに高緯度で観測されたTEC増加はSED現象に関連していると指摘した。しかし、これまでの研究の多くは、領域ごとのTECの時間・空間変動に着目し、また、TECの時間・空間分解能が低かったことから磁気嵐の発達・衰退過程におけるTECの全球的でかつ詳細な時間・空間変動特性が未解明のままである。そこで本研究では、情報通信研究機構から提供されている高時間・空間分解能を持つ全球GPS-TECデータを用いて、2004年11月8日に発生した磁気嵐に伴う全球的な電離圏の変動特徴を調べ、そのメカニズムを解明することを目的とする。本研究で用いるGPS-TECデータの空間分解能は、緯度0.5度×経度0.5度であり、時間分解能は5分である。ここでは10日静穏時の平均TECに対する擾乱時と静穏時の差分TECの比 (rTEC) を求め、その水平二次元分布の時間・空間変動を解析した。2004年11月8日に発生した磁気嵐は、SYM-H指数において最小値-400 nTを6:00 UTでとり、その後1日程度かけて回復している。その結果、回復相の11:00 UT において日本にのみrTECの特に大きな増加が見られ、その値はおよそ17 (~90 TECU) であった。この高rTEC構造は西向きに317 m/sの速度で伝播していた。また、東経142度 (稚内) でのTECの地理緯度-時間変動を調べたところ、地理緯度40~50度において特に高いTECが5:00 UTと11:00 UT付近に二度出現しており、これらは時間とともに高緯度側から低緯度側に伝播していたことが明らかになった。さらに、高rTEC領域の西向き伝播速度を求めるため、NOAAで公開されているDMSP衛星イオン・ドリフト・メーターのデータとGPS-TECデータとの比較を行った。日本上空で高rTEC領域が観測された11:00 UT付近に日本上空を通過したDMSP-F15衛星によると、磁気緯度40度において高rTEC構造の伝播速度に近い約250 m/sの西向きイオンドリフト速度が存在した。一方、rTECの全球水平二次元マップから、日本上空で高TEC値が観測された時間にオーストラリアでも同様にrTEC増加領域が観測された。そこで、IGRFモデルを用いてこのrTEC増加領域の南北共役性を調べた結果、日本上空で観測された二つのTECピークは南半球側のrTEC増加領域に対応していた。また、rTEC増加量は南半球よりも北半球において2倍以上大きく、増加領域の緯度幅も広く、空間構造も異なっていた。さらに、rTEC増加は両半球ともに5:00 UT付近において磁気緯度50度から開始し、時間とともに低緯度側に伝播していた。次に、rTECの全球的変動を調べるためにヨーロッパ、日本、アメリカにおけるrTECの磁気緯度-時間プロットを用いて比較を行った。その結果、日本の経度で一つ目のTECピークが観測された5:00 UTに日本の高緯度とアメリカの低緯度において同時に大きなrTEC増加が観測され、それらの値は6を超えていた。また、5:00 UTでのrTECマップから、高rTEC領域がアメリカから日本まで北西方向に広がっていたことが分かった。このrTEC増加の原因の一つにSEDが考えられる。従来、SEDは低緯度におけるTEC増加領域が高緯度側へ拡大し、その後西向きに運ばれることで生成されると考えられている[Tsurutani et al., 2004]。そこで、日本上空で高rTEC領域が317 m/sで西向きに伝播していた結果に基づき、rTEC増加領域がアメリカから日本までこの速度で伝播したと仮定すると、rTEC増加領域がアメリカから日本まで伝播するには9.5時間必要である。しかし、日本とアメリカのrTEC増加開始時間の差は6時間程度であり、日本でのrTEC増加は、アメリカから伝播してきたものではなく、日本周辺で発生したものと考えられる。二つ目のTECピークについても同様の解析を行い、11:35 UTにrTEC増加領域が日本からヨーロッパまで同時に存在していたことが観測された。以上の事実から、日本の高緯度で観測された一つ目のTECピークに関してTEC増加領域がアメリカと日本の間に存在し、二つ目のTECピークに関してTEC増加領域が日本とヨーロッパの間に存在していたと考えられる。したがって、従来のSED生成メカニズムとは異なるTEC増加メカニズムが存在する可能性があり、それは夜間のTEC増加を引き起こし、100度を超える経度方向の広がりを持つ可能性があると言える。