[PPS02-P01] 隕石及び鉱物粒子の摩耗実験:摩耗速度の粒子サイズ、振動速度依存性とイトカワや月レゴリス粒子への応用
小惑星イトカワ[1]や月[2]の表面から持ち帰ったレゴリス粒子にエッジの丸い粒子が見出されている。水などの流体が存在しない天体における粒子の摩耗では、機械的な運動により粒子同士が擦れ合うことが必要であり、現在考えられている小惑星イトカワの摩耗プロセスは、隕石衝突による地震波[1]やYORP効果[3]が考えられている。しかし実際にこれらの現象が天体表面の粒子をどの程度摩耗させるのかよく分かっていない。
イトカワなどの天体における摩耗現象を詳細に理解するため、我々は、これまでにさまざまな粒子サンプル(大きさが1 – 2 mm)を用いた摩耗実験を行なってきた[4]。用いたサンプルは、鉱物粒子として石英、カンラン石、コランダム、岩石粒子として大理石、隕石粒子としてL5コンドライト隕石(Sayh al Uhaymir 001)、CMコンドライト隕石(Murchison)である。それぞれ粒子を10 mLの容器に充填率が50 %になるように入れ、マルチビーズショッカー(安井器械株式会社)を用いて振動速度が1000-3000 rpmの範囲で振動させた。このとき250μm未満の粒子を粉とみなし、1分間の摩耗実験で出た粉の質量を初期質量で規格化した値ΔP1を摩耗量と定義し、ΔP1の振動速度やサンプル強度依存性を明らかにした。しかしながら、実験に使用された粒子サイズは1-2 mmであり、数100μmあるイトカワ粒子より大きい。また用いた振動速度(1000-3000 rpm)は、天体表面に隕石が衝突したとき生じる地震加速度[5]から見積もった天体に対応する振動速度(イトカワで~100 rpm、月で~700 rpm)よりも大きい。このため本研究では、イトカワなどの天体における摩耗現象のより深い議論をすることを目的として、[4]と同様の実験装置、実験手順により、粒子サイズや振動速度などのパラメータを変えた実験を行った。本研究では主に石英、カンラン石、そして新しく玄武岩の粒子サンプルを用いて、(実験1)容器の充填率を変えた実験、(実験2)粒子サイズを変えた実験、(実験3)粒子サイズの異なる粒子を混合させた実験、(実験4)振動速度が1000 rpm以下での実験を行なった。新たに玄武岩を用いたのは、実際の天体構成物に類似した岩石粒子の摩耗挙動を求めるためである。
摩耗実験を行なった結果、容器への充填率が2/3のときが最も摩耗したが、その他の充填率では摩耗量ΔP1はほぼ一定となった(実験1)。さらに、ΔP1は粒子サイズに比例することが(実験2)、大きな粒子の混合比が25 %以上ではΔP1は大きい粒子のみのΔP1にほぼ等しくなることが(実験3)わかった。一方、振動数が1000 rpm以上の時には、ΔP1は振動数の冪(冪数:1.1~2.9)に比例して大きくなることがわかっていたが[4]、1000 rpm以下では冪数が0.67~0.77と小さくなることがわかった(実験4)。この結果は、1000 rpmあたりを境に摩耗のモードが異なっていることを示している。摩耗モードについて議論するために、摩耗実験で生成された粉のSEM観察を新たに行い、粉体粒子形状の違いを考察した結果、100 rpmあたりの低振動速度では粒子のエッジの欠け(chipping)が起き、振動速度が大きくなるにつれて次第に粒子表面のすり減り(gradual wearing)の割合が増加すると考えられることが分かった。
今回の実験をもとにして、隕石衝突時、天体表面に生じる加速度によってレゴリス粒子がどの程度摩耗するのかを考察した結果、イトカワに対応する振動速度~100 rpmでのカンラン石の摩耗量ΔP1は約~0.1 %、月に対応する振動速度~700 rpmでの玄武岩の摩耗量ΔP1は約~1 %となる。これにイトカワ粒子や月粒子が数100 μmサイズであることを考慮すれば、実験2の結果よりイトカワでのΔP1は~0.01 %、月でのΔP1は~0.1 %となる。この結果は[4]に比べ、摩耗量ΔP1が1オーダ大きくなった。これらから月では摩耗は可能であり、イトカワでも摩耗は起こる可能性があることが示唆される。しかし本研究は1分間の摩耗量で議論しており、より実際の天体表面に近い条件で比較、議論する必要がある。
[1]Tsuchiyama et al. (2011).Science,333,1125-1128
[2]Sakurama et al. (2016).JpGU,Abstract,PPS03-13
[3]Connolly et al. (2015).Earth Planet and Space,67:12
[4]Tsuchiyama et al. (2018).LPSC,Abstract#1844
[5]Yasui et al. (2015).Icarus,260,320-331
イトカワなどの天体における摩耗現象を詳細に理解するため、我々は、これまでにさまざまな粒子サンプル(大きさが1 – 2 mm)を用いた摩耗実験を行なってきた[4]。用いたサンプルは、鉱物粒子として石英、カンラン石、コランダム、岩石粒子として大理石、隕石粒子としてL5コンドライト隕石(Sayh al Uhaymir 001)、CMコンドライト隕石(Murchison)である。それぞれ粒子を10 mLの容器に充填率が50 %になるように入れ、マルチビーズショッカー(安井器械株式会社)を用いて振動速度が1000-3000 rpmの範囲で振動させた。このとき250μm未満の粒子を粉とみなし、1分間の摩耗実験で出た粉の質量を初期質量で規格化した値ΔP1を摩耗量と定義し、ΔP1の振動速度やサンプル強度依存性を明らかにした。しかしながら、実験に使用された粒子サイズは1-2 mmであり、数100μmあるイトカワ粒子より大きい。また用いた振動速度(1000-3000 rpm)は、天体表面に隕石が衝突したとき生じる地震加速度[5]から見積もった天体に対応する振動速度(イトカワで~100 rpm、月で~700 rpm)よりも大きい。このため本研究では、イトカワなどの天体における摩耗現象のより深い議論をすることを目的として、[4]と同様の実験装置、実験手順により、粒子サイズや振動速度などのパラメータを変えた実験を行った。本研究では主に石英、カンラン石、そして新しく玄武岩の粒子サンプルを用いて、(実験1)容器の充填率を変えた実験、(実験2)粒子サイズを変えた実験、(実験3)粒子サイズの異なる粒子を混合させた実験、(実験4)振動速度が1000 rpm以下での実験を行なった。新たに玄武岩を用いたのは、実際の天体構成物に類似した岩石粒子の摩耗挙動を求めるためである。
摩耗実験を行なった結果、容器への充填率が2/3のときが最も摩耗したが、その他の充填率では摩耗量ΔP1はほぼ一定となった(実験1)。さらに、ΔP1は粒子サイズに比例することが(実験2)、大きな粒子の混合比が25 %以上ではΔP1は大きい粒子のみのΔP1にほぼ等しくなることが(実験3)わかった。一方、振動数が1000 rpm以上の時には、ΔP1は振動数の冪(冪数:1.1~2.9)に比例して大きくなることがわかっていたが[4]、1000 rpm以下では冪数が0.67~0.77と小さくなることがわかった(実験4)。この結果は、1000 rpmあたりを境に摩耗のモードが異なっていることを示している。摩耗モードについて議論するために、摩耗実験で生成された粉のSEM観察を新たに行い、粉体粒子形状の違いを考察した結果、100 rpmあたりの低振動速度では粒子のエッジの欠け(chipping)が起き、振動速度が大きくなるにつれて次第に粒子表面のすり減り(gradual wearing)の割合が増加すると考えられることが分かった。
今回の実験をもとにして、隕石衝突時、天体表面に生じる加速度によってレゴリス粒子がどの程度摩耗するのかを考察した結果、イトカワに対応する振動速度~100 rpmでのカンラン石の摩耗量ΔP1は約~0.1 %、月に対応する振動速度~700 rpmでの玄武岩の摩耗量ΔP1は約~1 %となる。これにイトカワ粒子や月粒子が数100 μmサイズであることを考慮すれば、実験2の結果よりイトカワでのΔP1は~0.01 %、月でのΔP1は~0.1 %となる。この結果は[4]に比べ、摩耗量ΔP1が1オーダ大きくなった。これらから月では摩耗は可能であり、イトカワでも摩耗は起こる可能性があることが示唆される。しかし本研究は1分間の摩耗量で議論しており、より実際の天体表面に近い条件で比較、議論する必要がある。
[1]Tsuchiyama et al. (2011).Science,333,1125-1128
[2]Sakurama et al. (2016).JpGU,Abstract,PPS03-13
[3]Connolly et al. (2015).Earth Planet and Space,67:12
[4]Tsuchiyama et al. (2018).LPSC,Abstract#1844
[5]Yasui et al. (2015).Icarus,260,320-331