日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS03] Solar System Small Bodies: A New Frontier Arising Hayabusa 2, OSIRIS-REx and Other Projects

2019年5月28日(火) 10:45 〜 12:15 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:石黒 正晃(ソウル大学物理天文学科)、中本 泰史(東京工業大学)、安部 正真(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、Olivier S Barnouin(Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory)、座長:Masateru Ishiguro(Seoul National University)

10:45 〜 11:00

[PPS03-01] ラブルパイル小惑星リュウグウの形状と起源

★招待講演

*渡邊 誠一郎1,5平林 正俊2平田 成3平田 直之4野口 里奈5嶌生 有理5池田 人6巽 瑛理7吉川 真5菊地 翔太5薮田 ひかる8中村 智樹9橘 省吾7,5石原 吉明10諸田 智克1北里 宏平3坂谷 尚哉5松本 晃治11,12和田 浩二13千秋 博紀13本田 親寿3道上 達広14竹内 央5神山 徹15本田 理恵16Robert Gaskell17Eric Palmer17Olivier Barnouin18Patrick Michel19Paul Abell20山本 幸生5田中 智5白井 慶5松岡 萌5杉田 精司5,7岡田 達明5並木 則行11荒川 政彦4石黒 正晃21小川 和律4照井 冬人5佐伯 孝尚5中澤 暁5津田 雄一5はやぶさ2 サイエンスチーム (1.名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻、2.オーバン大学、3.会津大学、4.神戸大学、5.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、6.宇宙航空研究開発機構 研究開発部門、7.東京大学、8.広島大学、9.東北大学、10.国立環境研究所、11.国立天文台、12.総合研究院大学、13.千葉工業大学、14.近畿大学、15.産業技術総合研究所、16.高知大学、17.惑星科学研究所、18.ジョンホプキンス大学、19.コート・ダジュール大学/観測所、20.NASA ジョンソンスペースセンター、21.ソウル大学)

キーワード:惑星探査、C型小惑星、ラブルパイル天体、はやぶさ2

はやぶさ2は2018年6月に地球接近小惑星リュウグウに到着し,高度20 kmもしくはそれ以下の高度からのリモートセンシング観測を行ってきた[1, 2].また,ローバーMINERVA-IIA,ランダーMASCOTの投下・観測に成功した.はやぶさ2搭載の可視カメラONC-Tの画像から,短期間で信頼できるものを作成するためにSPC[3]とSfM[4] という2つの手法で形状モデルを作成した.両者の比較から,高緯度地域や岩塊周辺を除いて 2m以内の精度で形状復元ができていることを確認した[1].

作成されたSPC形状モデルから得られたリュウグウの全体積は0.377±0.005 km3であり,2018年8月の重力計測観測から求められた質量は(4.50±0.06) × 1011 kgであった.これより,バルク密度は 1.19±0.03 g cm-3 と求められた[1].これは波長0.7 μmの吸収(水質変成)を持つCgh, Ch型の小惑星のうち質量測定されているもののバルク密度範囲(1.6―2.4 g cm-3)より有意に低いが,その吸収を持たず非加熱氷小惑星起源の可能性のあるBCG型小惑星(B, Cb, C, Cg型)のバルク密度の測定範囲(0.8―1.5 g cm-3)とは同程度である[5].このことは,リュウグウはCb型のスペクトルを持ち,0.7 μmの吸収は見られないことと調和的である[2, 6].リュウグウ表面には含水鉱物が存在することがNIRS3の分光観測から明らかになった[6].リュウグウの放射平衡温度は250 K程度とリュウグウ中心圧力(~8 Pa)での氷の昇華温度(230 K)よりも高く,熱拡散時間も地球接近小惑星としての寿命よりずっと短いため,水氷が内部にあるとは考えにくい.ただし,リュウグウが小惑星帯にあった時期に水氷を保持していて,それが抜けたために高空隙率となった可能性はある.

リュウグウの空隙率は,CMコンドライトの粒子密度[7]を仮定すると57―63%,CIコンドライトOrgueilのそれ[7]を仮定すると50―52%となる.この空隙率は,ラブルパイル小惑星イトカワ(44±4%)[8, 9]よりも高く,クレーターからの放出では説明できない大きなボルダーが表面に散在することと合わせて,リュウグウがラブルパイル天体であり,より大きな小惑星の破片が再集積してできたことを強く支持する.

はやぶさ2の観測により,リュウグウはいわゆるtop shpaeをもち,顕著な赤道リッジを持つことが明らかになった.地球接近小惑星は地上レーダー観測からいくつもtop shpaeを持つものが見つかっているが,探査機が訪れたのはリュウグウが最初である.OSIRIS-RExが近傍探査しているBennuが2番目だが,リュウグウほど顕著な赤道リッジを持ってはいない.

リュウグウの現在の自転周期は約7.63時間で,中緯度帯が重力ポテンシャルの極小部分となっている.しかし,現在の形状のままリュウグウの自転周期を3.5時間にすると,赤道が重力ポテンシャルの極小となり,重力ポテンシャル面からの表面傾斜は広い範囲で31°程度となることが,明らかになった.これは,かつて高速回転していた時代に遠心力による変形でリュウグウが形成されたことを示唆する.変形は,形成期の再集積時[10],もしくは後期になってYORP効果などによるスピンアップ時に生じたと考えられる[11].後者の場合,変形モードは表面地滑りもしくは内部変形が考えられる.表面粒子に大きなサイズ分別が見られないこと,赤道帯が新鮮な物質でできている可能性があることなどは,内部変形モードと調和的である.

NIRS3が観測した近赤外吸収は熱変成/衝撃変性を受けたCI/CMコンドライトと相似性が高い[6].地上落下隕石に占めるこれら相似な隕石の割合はかなり低い一方,BCG型小惑星は小惑星メインベルトに豊富に存在する.今回,BCG型小惑星リュウグウが,高空隙率で,強度が弱いことが示唆されたが,このような小惑星破片が地球大気圏に突入した場合,破壊され地上に到達しにくいことが予想される.これはBCG型小惑星を母天体とする隕石が少ないことを説明し,惑星間塵にその対応物を探す意義[5]を示していると考える.地球への水・有機物の供給源を考える上で,炭素質の小惑星の組成のみでなく,その強度や内部状態の理解も重要であり,はやぶさ2およびOSIRIS-RExの更なる観測および帰還試料分析が,その鍵を握るはずである.

References: [1] S. Watanabe+ (2019) Science, under review, [2] S. Sugita+ (2019) Science, under review, [3] R.W. Gaskell+ (2008) Meteoritics & Planet Sci., 43, 1049. [4] R. Szeliski (2010) Computer Vision: Algorithms and Applications (Science & Business Media, Springer, New York), [5] P. Vernazza+ (2015) Astrophys. J., 806, 204, [6] K. Kitazato+ (2019) Science, under review, [7] R.J. Macke+ (2011) Meteoritics & Planet Sci., 46, 1842, [8] A. Fujiwara+ (2006) Science 312, 1330, [9] A. Tsuchiyama+ (2011), Science, 333, 1125, [10] P. Michel+ (2001) Science, 294, 1696, [11] K. J. Walsh (2018) Ann. Rev. Astron. Astrophys. 56, 593.