10:45 〜 11:00
[PPS03-01] ラブルパイル小惑星リュウグウの形状と起源
★招待講演
キーワード:惑星探査、C型小惑星、ラブルパイル天体、はやぶさ2
はやぶさ2は2018年6月に地球接近小惑星リュウグウに到着し,高度20 kmもしくはそれ以下の高度からのリモートセンシング観測を行ってきた[1, 2].また,ローバーMINERVA-IIA,ランダーMASCOTの投下・観測に成功した.はやぶさ2搭載の可視カメラONC-Tの画像から,短期間で信頼できるものを作成するためにSPC[3]とSfM[4] という2つの手法で形状モデルを作成した.両者の比較から,高緯度地域や岩塊周辺を除いて 2m以内の精度で形状復元ができていることを確認した[1].
作成されたSPC形状モデルから得られたリュウグウの全体積は0.377±0.005 km3であり,2018年8月の重力計測観測から求められた質量は(4.50±0.06) × 1011 kgであった.これより,バルク密度は 1.19±0.03 g cm-3 と求められた[1].これは波長0.7 μmの吸収(水質変成)を持つCgh, Ch型の小惑星のうち質量測定されているもののバルク密度範囲(1.6―2.4 g cm-3)より有意に低いが,その吸収を持たず非加熱氷小惑星起源の可能性のあるBCG型小惑星(B, Cb, C, Cg型)のバルク密度の測定範囲(0.8―1.5 g cm-3)とは同程度である[5].このことは,リュウグウはCb型のスペクトルを持ち,0.7 μmの吸収は見られないことと調和的である[2, 6].リュウグウ表面には含水鉱物が存在することがNIRS3の分光観測から明らかになった[6].リュウグウの放射平衡温度は250 K程度とリュウグウ中心圧力(~8 Pa)での氷の昇華温度(230 K)よりも高く,熱拡散時間も地球接近小惑星としての寿命よりずっと短いため,水氷が内部にあるとは考えにくい.ただし,リュウグウが小惑星帯にあった時期に水氷を保持していて,それが抜けたために高空隙率となった可能性はある.
リュウグウの空隙率は,CMコンドライトの粒子密度[7]を仮定すると57―63%,CIコンドライトOrgueilのそれ[7]を仮定すると50―52%となる.この空隙率は,ラブルパイル小惑星イトカワ(44±4%)[8, 9]よりも高く,クレーターからの放出では説明できない大きなボルダーが表面に散在することと合わせて,リュウグウがラブルパイル天体であり,より大きな小惑星の破片が再集積してできたことを強く支持する.
はやぶさ2の観測により,リュウグウはいわゆるtop shpaeをもち,顕著な赤道リッジを持つことが明らかになった.地球接近小惑星は地上レーダー観測からいくつもtop shpaeを持つものが見つかっているが,探査機が訪れたのはリュウグウが最初である.OSIRIS-RExが近傍探査しているBennuが2番目だが,リュウグウほど顕著な赤道リッジを持ってはいない.
リュウグウの現在の自転周期は約7.63時間で,中緯度帯が重力ポテンシャルの極小部分となっている.しかし,現在の形状のままリュウグウの自転周期を3.5時間にすると,赤道が重力ポテンシャルの極小となり,重力ポテンシャル面からの表面傾斜は広い範囲で31°程度となることが,明らかになった.これは,かつて高速回転していた時代に遠心力による変形でリュウグウが形成されたことを示唆する.変形は,形成期の再集積時[10],もしくは後期になってYORP効果などによるスピンアップ時に生じたと考えられる[11].後者の場合,変形モードは表面地滑りもしくは内部変形が考えられる.表面粒子に大きなサイズ分別が見られないこと,赤道帯が新鮮な物質でできている可能性があることなどは,内部変形モードと調和的である.
NIRS3が観測した近赤外吸収は熱変成/衝撃変性を受けたCI/CMコンドライトと相似性が高い[6].地上落下隕石に占めるこれら相似な隕石の割合はかなり低い一方,BCG型小惑星は小惑星メインベルトに豊富に存在する.今回,BCG型小惑星リュウグウが,高空隙率で,強度が弱いことが示唆されたが,このような小惑星破片が地球大気圏に突入した場合,破壊され地上に到達しにくいことが予想される.これはBCG型小惑星を母天体とする隕石が少ないことを説明し,惑星間塵にその対応物を探す意義[5]を示していると考える.地球への水・有機物の供給源を考える上で,炭素質の小惑星の組成のみでなく,その強度や内部状態の理解も重要であり,はやぶさ2およびOSIRIS-RExの更なる観測および帰還試料分析が,その鍵を握るはずである.
References: [1] S. Watanabe+ (2019) Science, under review, [2] S. Sugita+ (2019) Science, under review, [3] R.W. Gaskell+ (2008) Meteoritics & Planet Sci., 43, 1049. [4] R. Szeliski (2010) Computer Vision: Algorithms and Applications (Science & Business Media, Springer, New York), [5] P. Vernazza+ (2015) Astrophys. J., 806, 204, [6] K. Kitazato+ (2019) Science, under review, [7] R.J. Macke+ (2011) Meteoritics & Planet Sci., 46, 1842, [8] A. Fujiwara+ (2006) Science 312, 1330, [9] A. Tsuchiyama+ (2011), Science, 333, 1125, [10] P. Michel+ (2001) Science, 294, 1696, [11] K. J. Walsh (2018) Ann. Rev. Astron. Astrophys. 56, 593.
作成されたSPC形状モデルから得られたリュウグウの全体積は0.377±0.005 km3であり,2018年8月の重力計測観測から求められた質量は(4.50±0.06) × 1011 kgであった.これより,バルク密度は 1.19±0.03 g cm-3 と求められた[1].これは波長0.7 μmの吸収(水質変成)を持つCgh, Ch型の小惑星のうち質量測定されているもののバルク密度範囲(1.6―2.4 g cm-3)より有意に低いが,その吸収を持たず非加熱氷小惑星起源の可能性のあるBCG型小惑星(B, Cb, C, Cg型)のバルク密度の測定範囲(0.8―1.5 g cm-3)とは同程度である[5].このことは,リュウグウはCb型のスペクトルを持ち,0.7 μmの吸収は見られないことと調和的である[2, 6].リュウグウ表面には含水鉱物が存在することがNIRS3の分光観測から明らかになった[6].リュウグウの放射平衡温度は250 K程度とリュウグウ中心圧力(~8 Pa)での氷の昇華温度(230 K)よりも高く,熱拡散時間も地球接近小惑星としての寿命よりずっと短いため,水氷が内部にあるとは考えにくい.ただし,リュウグウが小惑星帯にあった時期に水氷を保持していて,それが抜けたために高空隙率となった可能性はある.
リュウグウの空隙率は,CMコンドライトの粒子密度[7]を仮定すると57―63%,CIコンドライトOrgueilのそれ[7]を仮定すると50―52%となる.この空隙率は,ラブルパイル小惑星イトカワ(44±4%)[8, 9]よりも高く,クレーターからの放出では説明できない大きなボルダーが表面に散在することと合わせて,リュウグウがラブルパイル天体であり,より大きな小惑星の破片が再集積してできたことを強く支持する.
はやぶさ2の観測により,リュウグウはいわゆるtop shpaeをもち,顕著な赤道リッジを持つことが明らかになった.地球接近小惑星は地上レーダー観測からいくつもtop shpaeを持つものが見つかっているが,探査機が訪れたのはリュウグウが最初である.OSIRIS-RExが近傍探査しているBennuが2番目だが,リュウグウほど顕著な赤道リッジを持ってはいない.
リュウグウの現在の自転周期は約7.63時間で,中緯度帯が重力ポテンシャルの極小部分となっている.しかし,現在の形状のままリュウグウの自転周期を3.5時間にすると,赤道が重力ポテンシャルの極小となり,重力ポテンシャル面からの表面傾斜は広い範囲で31°程度となることが,明らかになった.これは,かつて高速回転していた時代に遠心力による変形でリュウグウが形成されたことを示唆する.変形は,形成期の再集積時[10],もしくは後期になってYORP効果などによるスピンアップ時に生じたと考えられる[11].後者の場合,変形モードは表面地滑りもしくは内部変形が考えられる.表面粒子に大きなサイズ分別が見られないこと,赤道帯が新鮮な物質でできている可能性があることなどは,内部変形モードと調和的である.
NIRS3が観測した近赤外吸収は熱変成/衝撃変性を受けたCI/CMコンドライトと相似性が高い[6].地上落下隕石に占めるこれら相似な隕石の割合はかなり低い一方,BCG型小惑星は小惑星メインベルトに豊富に存在する.今回,BCG型小惑星リュウグウが,高空隙率で,強度が弱いことが示唆されたが,このような小惑星破片が地球大気圏に突入した場合,破壊され地上に到達しにくいことが予想される.これはBCG型小惑星を母天体とする隕石が少ないことを説明し,惑星間塵にその対応物を探す意義[5]を示していると考える.地球への水・有機物の供給源を考える上で,炭素質の小惑星の組成のみでなく,その強度や内部状態の理解も重要であり,はやぶさ2およびOSIRIS-RExの更なる観測および帰還試料分析が,その鍵を握るはずである.
References: [1] S. Watanabe+ (2019) Science, under review, [2] S. Sugita+ (2019) Science, under review, [3] R.W. Gaskell+ (2008) Meteoritics & Planet Sci., 43, 1049. [4] R. Szeliski (2010) Computer Vision: Algorithms and Applications (Science & Business Media, Springer, New York), [5] P. Vernazza+ (2015) Astrophys. J., 806, 204, [6] K. Kitazato+ (2019) Science, under review, [7] R.J. Macke+ (2011) Meteoritics & Planet Sci., 46, 1842, [8] A. Fujiwara+ (2006) Science 312, 1330, [9] A. Tsuchiyama+ (2011), Science, 333, 1125, [10] P. Michel+ (2001) Science, 294, 1696, [11] K. J. Walsh (2018) Ann. Rev. Astron. Astrophys. 56, 593.