日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS04] 火星と火星圏の科学

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、松岡 彩子(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、Sushil K Atreya(University of Michigan Ann Arbor)

[PPS04-P05] 火星パヴォニス山に記録された氷床の周期的成長

*神崎 友裕1Reid Parsons1,2逸見 良道1宮本 英昭1 (1.東京大学、2.フィッチバーグ州立大学)

キーワード:火星、火星の気候、タルシス地方、ミランコビッチサイクル

現在の火星において、多量の水氷は極域においてしか観測されていないが、かつて氷体が存在したことを示唆する地形として中緯度帯ではLDA、LVF、CCFが挙げられている(Levy et al., 2014)。また、低緯度帯ではタルシス地域の3つの楯状火山の北西麓に発達する扇状堆積物がそれに相当すると考えられている(例えば、Fastook et al., 2008)。
タルシス三山の扇状堆積物は、山体から西または北西方向に100~500 km程度の範囲の平地に広がる特徴的な地形で、山側から平滑な丘陵であるSmooth Facies、数100 m程度の小丘が密集するKnobby Facies、何本もの線状の隆起地形(以下、モレーン状地形)が平行に発達するRidged Faciesに分類される。特にアルシア山(Kadish et al., 2014)、パヴォニス山(Shean et al., 2005)では扇端に多数のモレーン状地形が見られるが、これらはかつて山麓に発達していた氷床の広がりを示すモレーンであると解釈されてきた。このように、数十kmにわたって氷床の消長を記録すると見られる地形はアルシアおよびパヴォニス山に特徴的である。
これらの氷河性と推定される地形は、かつて火星の地軸傾斜角が十分に大きかった時代に形成されたと考えられている。火星においては、地軸傾斜角は地球のそれと比べて大きく変動しており、過去2千万年のあいだには最大で45°に達していたと考えられている(Laskar et al., 2004)が、このとき高緯度域での日射量が増大し、極冠が昇華して大気中の水蒸気量が現在よりも多かったことが想定される。モデル計算によると、現在の地軸傾斜角(25.2°)における火星の表層環境では水の氷は緯度40°以上でのみ安定して存在できるが、地軸傾斜角が32.3°を超えると大気中の水蒸気量が十分に多くなり、全球にわたって水の氷が存在できるようになる(Mellon & Jakosky, 1995)。そこで、地軸傾斜角が大きかった時代に中・低緯度域で水氷が堆積したとして「氷期」の存在が提唱されている(Head et al., 2003)。
タルシス三山の山麓における氷床の消長が軌道傾斜角の変動に伴う気候変動を示すものであったとすれば、これらモレーン状地形のそれぞれが1つの古気候サイクルに対応することになる。しかし、その間隔や規模の変動、そして軌道要素の変動との対応関係についてはこれまで検討されてこなかった。そこで本研究では、モレーン状地形の分布を氷床の広がりと関連付けるための基礎検討として、パヴォニス山において扇状堆積物周縁部のDEMデータをCTX画像より作成し、それを用いてそれぞれのモレーン状地形の間隔、断面積を測定したほか、地形断面図を周期解析した。
結果として、モレーン状地形の間隔は数百mから4.5 kmと大きく変動しており、モレーン状地形の分布の疎密が明らかになった。また、モレーンの断面積も1.4×104 m2以下の範囲で大きく変動している。モレーンの分布の疎密および断面積の変動は、氷床の消長を引き起こしたイベントの発生頻度または氷床の拡大・縮小速度の変化を記録していると考えられる。タルシス地域で想定される、氷床の消長に関わる周期的なイベントとしては軌道要素の変化によるグローバルな気候変動と火山活動の盛衰が可能性として挙げられるが、特にグローバルな気候変動によることを示すには、隣接するアルシア山や軌道計算から推定される日射量変動との対比が必要である。そこで、本研究ではパヴォニス山のモレーン状地形の発生頻度を周期解析し、その結果について発表する。