日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、座長:黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科)、仲内 悠祐(JAXA/ISAS)

15:30 〜 15:45

[PPS06-19] Experimental study on the structure of shock remnant magnetization

*加藤 翔太1佐藤 雅彦1黒澤 耕介2潮田 雅司3長谷川 直4 (1.東京大学地球惑星科学専攻、2.千葉工業大学 惑星探査研究センター、3.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、4.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:衝突残留磁化、planetary paleofield、磁気異常

惑星磁場の変動に関する情報は惑星の大気進化や内部進化の理解において重要な役割を果たすが、月・火星・水星などの惑星磁場の変動に関する記録は適切な岩石試料がほとんど存在していないために限られている。そのため、過去の惑星磁場の推定手法の開発は重要である。

 天体衝突時の惑星磁場は地殻岩石中の磁性鉱物に衝突残留磁化として記録され、磁気異常として探査機によって観測される。クレーターの磁気異常は年代が精度良く決まるために過去の磁場の変動の記述に適するが、各点の残留磁化による磁場の和が磁気異常として観測されるため衝突残留磁化の構造の理解が重要である。衝突残留磁化の構造に関する過去の研究としてSQUID(超伝導量子干渉計)顕微鏡を用いた衝突実験試料の薄片観察が報告されている(Gattacceca et al., 2010)。Gattacceca et al. (2010)では、衝突残留磁化は試料内で均質と報告されているが、衝突時の温度・圧力に応じた空間構造が存在すると考えられる。

 そこで本研究では衝突残留磁化の構造の解明を目的とし、磁場中で衝突実験を行った岩石試料を細分化してその残留磁化を測定した。ターゲットには直径10 cm高さ10 cmの円柱形の玄武岩を用い、衝突実験の前に80 mTで自然残留磁化を交流消磁した。この玄武岩試料の磁気的性質を調べるために同一の岩片試料の各種の磁気測定を実施した。衝突実験には宇宙科学研究所の二段式軽ガス銃を用いた。真空チャンバー中に3層磁気シールドを入れて外部磁場の遮蔽を行い、さらに磁気シールド内にソレノイドコイルを入れて衝突時の磁場を制御した。今回は衝突時の磁場を強度0 μTと100 μTとし方向は円柱形試料の軸に平行に設定して実施した。プロジェクタイルには直径2 mmのAl球を用いた。先行研究との違いを明確に示すには可能な限り大きな衝突磁化構造を回収する必要がある。そこで衝突速度は本実験施設で達成可能な最高速度である約7 km/sとした。衝突実験後の試料のクレーター中心を含む領域を岩石カッターによって3 mm角立方体に細分化した。さらに、高知大学海洋コア総合研究センターにおいて各立方体試料の段階交流消磁を2 mTより80 mTまで実施し超伝導磁力計を用いて残留磁化を測定した。

 衝突時磁場0 μTでの衝突残留磁化の強度は最大1.010-4Am2/kgであった。一方で、磁場100μTでの衝突残留磁化強度は1.010-4Am2/kgに対して有意に大きく、衝突残留磁化の強度に磁場の有無が大きく影響することが示された。本研究では衝突時磁場100 μTでの衝突残留磁化の構造を得ることに成功し、以下の特徴が見られた:(1)衝突点からの距離で決まる球対称構造、(2)衝突点から距離12 mm以内では距離に対して増加傾向、特に衝突点から6–9 mmの領域では高保磁力成分に富む、(3)衝突点から距離12–40 mmの領域では強度が距離に反比例する傾向であった。この結果をiSALE(Impact-Sale)による温度・圧力変化の数値計算の結果と比較を行った。10℃以上の温度上昇が距離13 mm以内で生じ(2)の領域での磁化の獲得に温度変化が関与していると考えられ、(3)の領域では温度変化はほぼ見られず圧力変化が支配的であると考えられる。また、圧力変化が1 GPa以下の領域では残留磁化強度が圧力の1次関数でよく説明でき、1 GPa以下で実験を行い試料全体の衝突残留磁化強度が圧力に比例すると報告しているNagata, (1971)の結果と整合的であった。
 本研究で確立した手法により、衝突点からの距離に対する衝突残留磁化の変化を定量的に評価することが可能となった。今後は本手法を用いて各種実験を行っていく事で、実際のクレーター周辺における衝突残留磁化のモデルを構成可能であると考えられ、衝突残留磁化のモデルより計算される磁気異常をクレーター上の磁気異常の観測値と比較することによりクレーター形成時の磁場が推定できると期待される。

謝辞: G. Collins, K. Wünnemann, B. Ivanov, J. Melosh, and D. Elbeshausenを始めとするiSALEの開発者の方々にこの場を借りて謝意を表します。