日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、座長:黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科)、仲内 悠祐(JAXA/ISAS)

16:00 〜 16:15

[PPS06-21] 小惑星表面を模擬した砂・石膏標的を用いた高速度クレーター形成実験

*杉村 瞭1荒川 政彦1保井 みなみ1石黒 琢也1 (1.神戸大学)

キーワード:クレーター形成実験、強度、空隙率、クレータースケール則、放出破片速度

近年の惑星探査や地上観測の結果、小惑星は高空隙率であることが分かってきた。例えば、現在探査されているC型小惑星Ryuguは密度が1.27g/cm3であることが確認されており、C型小惑星を母天体とする炭素質コンドライト隕石の密度と比較して、50%以上の空隙率をもつと推定される。この空隙率と強度との間には密接な関係性がある。Yan and Sassa(2016)は地球の玄武岩の空隙率と圧縮強度の関係を室内実験で調べた結果、空隙率が30%の玄武岩の圧縮強度は、0%に比べて1桁近く小さくなることが分かった。従って、空隙率が50%以上もあると考えられる小惑星の表面強度は、さらに低い可能性が高い。一方、小惑星上には数多くの衝突クレーターが観測されている。小惑星上のクレーター形成過程を明らかにするため、これまで砂や氷、玄武岩など様々な物質を用いたクレーター形成実験が行われてきた。そして、これらの室内の実験結果を小惑星上に形成されるクレーター形成過程に適用するために、クレータースケーリング則がHousen & Holsapple (2011)によって提案されている。しかし、これまで調べられている比較的高強度のスケール則を多孔質小惑星表面の低強度に外挿できるかどうかは不明であり、室内実験でも低強度下での岩石物質のクレーター形成実験はほとんど行われていない。そこで、本研究では、多孔質の岩石小惑星表面に形成されるクレーター形成過程を理解するために、砂・石膏混合標的を用いた低強度範囲におけるクレーター形成実験を行い、強度がクレーター形成過程(クレーター径やエジェクタの噴出速度・角度)に与える影響を調べた。その結果を用いて、クレータースケーリング則を低強度領域まで拡張した。

本研究で用いた低強度標的は、粒径100μmの石英砂と石膏を混合して作成した。標的の引張破壊強度は、石英砂と石膏の質量混合比(石英砂:石膏粉末=2:1〜30:1)を変えることでコントロールした。衝突実験は神戸大学の横型二段式軽ガス銃を用いて行った。弾丸には直径2mmのアルミ球を用いて、衝突速度は2-6km/sと変化させた。衝突の様子は高速カメラで撮影し、撮影速度は105fpsとした。また、放出するエジェクタの速度と角度の測定は、カメラの視線方向に飛翔する破片をブロックするために、標的の前に幅1cmのスリットを置いて実験を行った。

標的中の石英砂の体積含有率を計測した結果、30〜50%の間で変化することがわかった。この試料を用いてブラジリアン試験を行ったところ、引張破壊強度は約1MPaから約1kPaまで、約3桁変化することがわかった。形成されたクレーターは表面近くにスポールと呼ばれる引張破壊で形成した不規則形状の浅い孔が観察され、その中心部分に半楕円球状のピットと呼ばれる圧縮破壊で形成した深い孔が観察された。クレーターのスポール直径及び深さに対する引張破壊強度の依存性を調べた結果、強度の低下とともにスポール直径は増大する一方、深さはほとんど変化しないことが分かった。またスポール領域とピット領域の境界が、強度の低下とともに分かりにくくなることがわかった。

本実験の結果を用いて、強度支配域におけるクレーターサイズに関するスケール則を調べ、先行研究の高強度の岩石物質の結果と比較した。本研究の結果は、(はクレーター半径に関するスケーリングパラメータ、は標的強度に関するスケーリングパラメータ)で表されることが分かった。本研究から得られたπRの値は、同じπYでの石膏の値より大きく、凍結砂の値よりも小さいことがわかった。また、クレーターの深さに関するスケール則は、(はクレーター深さに関するスケーリングパラメータ)と表され、先行研究とは異なりπYの値が変化してもほとんど一定になることがわかった。πRの値が凍結砂の結果に対して小さくなる原因は、標的内の石膏内の微小な空隙を圧壊することに衝突エネルギーが消費されたためであると考えられる。