日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、座長:末次 竜(産業医科大学)、杉浦 圭祐(名古屋大学)

09:45 〜 10:00

[PPS06-28] 揮発性物質を含む微惑星の衝突により形成されるコンドリュールのサイズと冷却速度

*城野 信一1 (1.名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻)

キーワード:コンドリュール、揮発性物質、微惑星、サイズ、冷却速度

コンドライト隕石中には,コンドリュールと呼ばれる直径0.1-2 mm程度の球が多数含まれる.体積比率にして80%を越える場合もあり,かつ形状が球であることから,原始太陽系円盤内で普遍的に発生していた発熱イベントにより形成されたと考えられている.室内実験で作成した冷却物との比較から,冷却速度は10-1000 K/h 程度と見積もられている.サイズと冷却速度が,コンドリュールを特徴づける上で最も重要な二つの物理量である.これまで多くのコンドリュール形成モデルが提案されてきたが,多くにおいてはコンドリュールが形成されるパラメータが特定の領域に限られている.

コンドリュール形成プロセスとして,微惑星の衝突は以前から注目されていた.しかし,衝突でシリケイトを溶融させるには数km/s の衝突速度が必要であり,ガスがまだ散逸していない段階の原始惑星系円盤ではその衝突速度が実現されることは困難である.しかし,ガスの降着により木星が形成されると周囲の微惑星の軌道を大きく乱し,衝突速度は10km/sにもなることがNagasawa et al. (2019)により明らかとなった.また一方でコンドリュールの形成年代はCAI形成後 1-3Myr 程度であり,木星の形成のタイミング,またそれに伴う微惑星軌道が乱されている期間の長さと矛盾しない.

しかし微惑星の衝突によってシリケイトメルトが形成されるとしても,大きさが0.1-2mm程度まで分裂するためには周囲のガスから受ける動圧が十分大きくなければならない.原始太陽系円盤のガスを考えると,密度が低すぎるためシリケイトメルトは1mほどのサイズまでしか小さくならない.そこで揮発性物質を含んだ微惑星の衝突を考えた.衝突によってシリケイトと共に加熱された揮発性物質は急激に膨張しガスとなる.ガスとシリケイトメルトとの速度差により動圧が生まれシリケイトメルトは分裂する.どのサイズまで分裂できるかは,ガス動圧と表面張力の比で表されるウェーバー数という無次元数で決定される.本研究では,シリケイトメルトと揮発性物質との混合物が1次元的に膨張するという衝撃波問題の数値シミュレーションを行った.

シミュレーションのパラメータは,混合層の厚さL,揮発性物質の質量分率f,温度T0の3つである.これら3つのパラメータを様々に変化させてシミュレーションを行った.揮発性物質は水とし,簡単のためガスは理想気体であるとした.

典型的な温度の進化を図に示す.ガスは膨張により仕事をするため温度が低下する.しかしシリケイトメルトからガスに熱が移動する.このプロセスが進行することで徐徐に温度は低下する.図の破線は半解析的に求めた式である.

様々なパラメータでシミュレーションを行ったが,分裂したシリケイトメルトのサイズは0.3-2mm程度,冷却速度は100-10000 K/h 程度の範囲に収まることがわかった.パラメータの調整が必要なこれまでのモデルとは大きく異なる結果となった.

揮発性物質は水とは限らず有機物である場合も考えられる.有機物である場合はガスが還元的になるので,Feは金属鉄としてコンドリュールに残ることになる.したがって,揮発性物質の種類によって酸化還元度の多様性が説明できる.また,微惑星の内部が26Alの加熱によって溶融している場合は,Feがコアに移動してしまっている可能性もある.この場合はFe量が低下することになり,H,L,LLコンドライトとして知られている多様性も説明できる.