[PPS06-P05] 火星古気候モデルへ向けた積雲対流スキームの導入
キーワード:火星、GCM、バレーネットワーク
火星では流水活動を示す地形が多数発見され、38億年程度前の火星は液体の水が長期に渡って存在できる環境だったことが示唆されている。一方、当時の太陽放射強度は現在の70-80%程度であったとされ(暗い太陽のパラドックス)、強い温室効果をもつCO2が2~7bar程度存在したとしても、流水環境を生み出すために前提となる温暖な環境を維持することは難しいことが幾つかのモデル研究で示されてきた[e.g. Kasting, 1991;Forget et al., 2013]。
我々は、太古の海洋存在下における水蒸気や雲による放射効果、土壌熱力学、海洋熱力学、水文過程を考慮に入れた火星古気候モデルを新たに開発し、液体の水が存在可能な温暖な火星環境および大部分の流水地形を再現することに成功してきた[Kamada et al., submitted to Icarus]。しかしこのモデルでは、サバエア大陸の高地などの一部の地域で流水地形が再現されていない。この原因としては、タルシス山地の形成前後による風系の変化、氷河流の未考慮などの要因が考えられる。その中の一つとして、このモデルにおける降水過程は大規模凝結のみを考慮し、積雲対流効果を考慮に入れていないことも考えられる。積雲対流効果は、大気の成層不安定状態を対流活動により解消し、対流性の降水を発生させるため、降水の地域分布と量に影響を与えうる。
本研究では、火星古気候モデルに積雲過程を表現するため、Kain-Fritsch スキーム[Kain and Fritsch, 1993]の導入を試みていく。このスキームは、格子中の積雲の効果をひとつの積雲の生成・成長・衰退に代表させて成層不安定性を解消させるものである。地球の大気大循環モデルにおいて広範に用いられているRelaxed Arakawa-Schubert スキーム[Moorthi and Suarez, 1991]は、格子中に異なる雲頂をもつ複数の積雲を扱えるが、雲質量フラックスを導出する過程などで地球での観測を考慮した単純化を行っており、このまま古火星に適用できるかは自明ではない。一方でKain-Fritsch スキームは、地球の経験的仮定に依存せず積雲の鉛直構造を直接計算する点で、火星古環境モデルにはより適していると考えられる。このスキームはアンサンブルという点ではRelaxed Arakawa-Schubert スキームには劣るが、将来的に高分解能を目指すのであれば、高分解能で精度の高いこのスキームを導入することには意義があると考える。最終的には、火星古気候モデルを高分解能(鉛直、水平共に)で回し、積雲対流モデルを導入した火星古気候モデルの妥当性、また水蒸気などの大気成分の長期的な輸送やかき混ぜから、流水地形に及ぼす影響を考察していく。
まず、観測データが多く、数値実験に基づいた理解も進んでいる地球の条件を設定したGCMにおいて、Kain-FritchスキームとRelaxed Arakawa-Schubertスキームによる雲構造や、熱収支、降水効果への影響の定量的な比較を行った。ここでの気温や降水量の外観的な結果は、両者で類似したものになると想定されたが、実際の計算結果では雲構造ではKain-Fritchスキームの方が低高度に広範囲の雲ができた。これは両者のデトレインメントの違いによるものであり、Kain-FritchスキームはRelaxed Arakawa-Schubertスキームよりも低高度で多くデトレインメントが起きていることが原因だと考えられる。次いで、このモデルに与える大気圧、大気組成、太陽フラックス、地形などをKamada et al. [submitted to Icarus] で適用した過去火星環境条件(0.5 – 2.0 bar のCO2大気)へ変更し、積雲対流スキームが作り出す雲構造の解析と水蒸気輸送の変化を、積雲対流スキームがない場合と比較し定性的・定量的に評価する。本講演では、この試行結果の総括および今後の展望について報告する。
我々は、太古の海洋存在下における水蒸気や雲による放射効果、土壌熱力学、海洋熱力学、水文過程を考慮に入れた火星古気候モデルを新たに開発し、液体の水が存在可能な温暖な火星環境および大部分の流水地形を再現することに成功してきた[Kamada et al., submitted to Icarus]。しかしこのモデルでは、サバエア大陸の高地などの一部の地域で流水地形が再現されていない。この原因としては、タルシス山地の形成前後による風系の変化、氷河流の未考慮などの要因が考えられる。その中の一つとして、このモデルにおける降水過程は大規模凝結のみを考慮し、積雲対流効果を考慮に入れていないことも考えられる。積雲対流効果は、大気の成層不安定状態を対流活動により解消し、対流性の降水を発生させるため、降水の地域分布と量に影響を与えうる。
本研究では、火星古気候モデルに積雲過程を表現するため、Kain-Fritsch スキーム[Kain and Fritsch, 1993]の導入を試みていく。このスキームは、格子中の積雲の効果をひとつの積雲の生成・成長・衰退に代表させて成層不安定性を解消させるものである。地球の大気大循環モデルにおいて広範に用いられているRelaxed Arakawa-Schubert スキーム[Moorthi and Suarez, 1991]は、格子中に異なる雲頂をもつ複数の積雲を扱えるが、雲質量フラックスを導出する過程などで地球での観測を考慮した単純化を行っており、このまま古火星に適用できるかは自明ではない。一方でKain-Fritsch スキームは、地球の経験的仮定に依存せず積雲の鉛直構造を直接計算する点で、火星古環境モデルにはより適していると考えられる。このスキームはアンサンブルという点ではRelaxed Arakawa-Schubert スキームには劣るが、将来的に高分解能を目指すのであれば、高分解能で精度の高いこのスキームを導入することには意義があると考える。最終的には、火星古気候モデルを高分解能(鉛直、水平共に)で回し、積雲対流モデルを導入した火星古気候モデルの妥当性、また水蒸気などの大気成分の長期的な輸送やかき混ぜから、流水地形に及ぼす影響を考察していく。
まず、観測データが多く、数値実験に基づいた理解も進んでいる地球の条件を設定したGCMにおいて、Kain-FritchスキームとRelaxed Arakawa-Schubertスキームによる雲構造や、熱収支、降水効果への影響の定量的な比較を行った。ここでの気温や降水量の外観的な結果は、両者で類似したものになると想定されたが、実際の計算結果では雲構造ではKain-Fritchスキームの方が低高度に広範囲の雲ができた。これは両者のデトレインメントの違いによるものであり、Kain-FritchスキームはRelaxed Arakawa-Schubertスキームよりも低高度で多くデトレインメントが起きていることが原因だと考えられる。次いで、このモデルに与える大気圧、大気組成、太陽フラックス、地形などをKamada et al. [submitted to Icarus] で適用した過去火星環境条件(0.5 – 2.0 bar のCO2大気)へ変更し、積雲対流スキームが作り出す雲構造の解析と水蒸気輸送の変化を、積雲対流スキームがない場合と比較し定性的・定量的に評価する。本講演では、この試行結果の総括および今後の展望について報告する。