日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:黒崎 健二(名古屋大学大学院 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)

[PPS06-P12] 粘土ペーストのレオロジーと火星表面地形の形成要因への応用

*植村 千尋1岩田 隆浩1,2中原 明生3松尾 洋介3臼井 寛裕2野口 里奈2 (1.総合研究大学院大学、2.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、3.日本大学)

キーワード:火星、RSL、レオロジー、降伏応力、粘土ペースト

火星表面には水が関与して出来たとされる地形が多く存在する。中でもRSL(Reccuring Slope Lineae)は現在でも季節変化によって発生・消失を繰り返し、水の関与が強く示唆される地形である。この形成要因については、砂が流れることで形成されるという説も存在し、未だ議論が収束していない。
水が流れる時は、周囲の土砂を巻き込み、ペースト状態となる。このペーストは興味深い性質を持ち、惑星科学だけでなく物理的にも研究の対象となっている。ペーストは粒子間に働く力の種類によって引力系、斥力系の2種類に分けられる。このうち、斥力系の粒子のペーストについてはよく調べられて来た。一方、粒子間には引力が働く系の性質については未だ明らかではない。しかし、火星表面にも存在する粘土鉱物は引力の働く系であり、粘土ペーストの流動性(レオロジー)は火星表面地形を理解する上で、重要である。また、RSLのように温度依存性が示唆される地形も存在することから、本研究では特にレオロジー(降伏応力、粘性率)の温度依存性に注目し、引力系ペーストの性質を調べる実験を行なった。

<実験方法>
粘土鉱物と同じく、粒子間に引力の働く炭酸水酸化マグネシウムを使用した。測定にはレオメーター(Anton Paar, Physica, MCR-301)を用いた。二重円筒型の流路を使用し、ペーストに対して時間とともに線形的に増加するせん断応力をかけた時に得られるせん断速度を測定した。異なる5通りの固相率のペーストに対し,0℃~75℃まで25度刻みで4つの温度について各4回ずつ測定を行い、得られたデータから降伏応力及び粘性率を求めた。

<結果>
通常の弾塑性体の降伏応力は温度の上昇に伴って減少するが、本研究では引力系ペーストにおいては降伏応力は温度の上昇に伴って大きくなるという逆の結果が得られた。理論モデルの解析により斥力系ペーストでは降伏応力は絶対温度に比例して増加するとの予測はあるものの、引力系ペーストの降伏応力の増加率は斥力系ペーストの理論予測をはるかに上回ることを示した。
粘性率については降伏応力とは異なり、通常の粘性流体と同様に温度の上昇に伴い粘性率が減少する傾向が見られた。これは、温度の上昇に伴い、溶媒である水の粘性率が低下する影響であると考えられる。

<考察>
実験結果から引力系のペーストのレオロジーは斥力系よりも強く温度に依存することがわかった。この原因として、温度変化に伴い、(1)粒子の電荷が変化(2)粘性の変化などの要因が考えられる。今後、実験・シミュレーションを通して明らかにしていきたい。
また、将来的にはこれらの実験結果を火星地形に適用し、形成要因へ制限をつけたい。そのためには、火星環境では実験結果がどう変わるのか等検討していく必要がある。