日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2019年5月26日(日) 15:30 〜 17:00 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、松本 恵(東北大学大学院)、座長:松本 恵藤谷 渉

16:45 〜 17:00

[PPS07-06] 小惑星での含水鉱物の熱進化: Ryugu, Bennuの熱史の理解に向けて

*石丸 夏奈1橘 省吾2 (1.東京大学、2.東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)

キーワード:熱変成、小惑星

小惑星サンプルリターンミッション「はやぶさ2」(JAXA)とOSIRIS-REx (NASA) は小惑星Ryugu, Bennuをそれぞれ現在探査している。はやぶさ2に搭載されている近赤外スペクトル測定器(NIRS3)によってRyuguに含水鉱物の弱い吸収が測定された。それに対し、OSIRIS-RExに搭載されている可視光・近赤外スペクトル測定器(OVIRS)はBennuの表面に含水鉱物による明瞭な吸収を確認した。これらから、RyuguとBennuは異なる熱史を経験し、含水鉱物の脱水はRyuguでより効率的に起こったことがわかる。したがって含水鉱物の熱変成過程を理解することはとても重要であるが、地質学的時間スケールでの熱進化の議論に必要な速度論データはまだ十分ではない。そこでRyuguとBennuでの熱変成を理解するため、真空中でserpentineの加熱実験を行った。



出発物質のserpentine(lizardite, 大分)をめのうすり鉢で-1µmまで粉砕し、加熱温度500-800°Cで2-88時間、真空度10-4-10-5Paで加熱した。サンプル分析はXRD(X線回折)とFTIR(フーリエ変換赤外分光法)で行った。加熱脱水によるサンプルの質量変化は電子天秤で秤量した。



500°Cで加熱されたサンプルは脱水したが、加熱後も結晶serpentineが主な結晶相であった。600°Cで加熱すると分解し非晶質になった。650°Cで加熱したサンプルはXRDパターンに非晶質serpentineから再結晶したolivineによる小さいピークと、残った非晶質によるハローパターンが見られた。700°C加熱サンプルも同様にXRDでolivineの小さなピークが見えたが、非晶質によるハローパターンは見られなかった。800°C加熱サンプルは再結晶olivineのピークに加えてenstatiteの最強ピークも見られた。FTIRスペクトルも以上の結果と一致している。



脱水serpentineからolivine再結晶の速度論データを得るために、650, 700°Cで加熱したサンプルのFTIRスペクトルをさらに分析した。結晶olivineによる10.4µmと11.4µmの吸収度の比を[1]の結果を用いてolivine再結晶度に転換した。650°Cと700°CのデータをJohnson-Mehl-Avrami-Kolmogorovの式を用いてフィッティングし(Avrami exponent 1.5)、再結晶速度定数k[h-1.5]は0.032 (650°C), 0.34 (700°C)と得られた。また再結晶の活性化エネルギーは356 kJ mol-1と推定される。



結果をもとに,Serpentine脱水 [2] と再結晶のTTT (Time-Temperature-Transformation) ダイアグラムが得られた。初期太陽系においてRyuguとBennuの母天体中での熱源を26Al(半減期約72万年)の放射壊変と仮定すると、加熱時間1000万年以下と考えられる。このダイアグラムから、含水鉱物を保持しているBennuは母天体中で350K以下に保たれている必要があり、含水鉱物が少ないRyuguは母天体中で450K以上の加熱を経験した必要がある。Fujiya et al. (2012) [3]によると、太陽系形成後350万年に集積した直径60km以下の小惑星中では、中心から3kmの範囲で最高温度400-450Kで200-300万年間加熱されたと推定されている。この場合小惑星の大部分は350K以下に保たれ、Bennuの条件を満たす。Ryuguのように脱水を経験するには母天体の直径が60kmより大きいか、熱源である26Alがより多く残っている太陽系形成後350万年以内に集積したと考えられる。



References: [1] Yamamoto D. and Tachibana S. (2018) ACS Earth Space Chem. 2, 778–786. [2] Yamamoto D. (2016) Master thesis. [3] Fujiya W. et al. (2012) Nat. Commun. 3, 627(6 pp).