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[PPS07-11] Acfer 094隕石中の宇宙シンプレクタイトの3次元微細組織観察
キーワード:Acfer 094、Cosmic symplectite、SR-XCT、NanoSIMS
はじめに
酸素同位体組成は、惑星物質の起源・生成環境を知る重要な手掛かりである。始原的隕石構成物の酸素同位体は、地球標準海水からの偏差量δ17Oとδ18Oの比がおよそ1となる、軽い組成(δ17,18O: ~-50–0 ‰)をもつe.g.,[1]。このような組成は、通常の物理化学反応に作用する同位体質量分別効果だけではなく、初期太陽系の16Oに富むリザーバーと17,18Oに富むリザーバーの混合によって生じたものと考えられている。前者について、代表物質とされる難揮発性包有物(CAIやAOA)の分析から、酸素同位体組成等の見積もりが行われているe.g.,[2]。また近年、後者の17,18Oに富むリザーバー由来の物質として、宇宙シンプレクタイト(Cosmic Symplectite, COS)と呼ばれる物質がAcfer 094隕石中に報告された[3]。COSは、磁鉄鉱(Fe3O4)と鉄ニッケル硫化物が数十nmスケールで入り組んだシンプレクタイト状の組織を示し、太陽系物質で最も重い酸素同位体組成(δ17,18O: ~180 ‰)をもつ[3,4]。これらは、初期太陽系の17,18Oに富む水もしくは水蒸気と鉄ニッケル金属、硫化物からなる粒子が反応して形成したと考えられているが、岩石鉱物学的な研究は少なく、形成過程については未だ議論の余地がある。本研究では、COSの形成過程の解明を目指し、放射光X線CTによる三次元組織観察とNanoSIMSによる酸素同位体組成分析を行い詳細な特徴を調べた。
結果と考察
初めにAcfer 094隕石研磨片(~2.2 mm2)についてFE-SEM観察を行い、マトリクス中に5個のCOS粒子を見出した。これらの粒子は小さく(~10 µm)、先行研究[5]で報告された繩状組織をもつCOSによく似た形状を示す。このうち1個の粒子を含むブロック(~25×25×30 µm)をFIBを用いて切り出し、SPring-8 BL47XUで高空間分解能(~100 nm)のX線CT撮影を行った。3次元観察から、COS粒子は、表面に多数の凸凹をもつ複雑な外形をもち、内部に微小な(<1 µm)包有物を複数含むことがわかった。包有物が含まれる空間はCOS内部で閉じており、外部と繋がるクラックは見られない。このことから、包有物はCOSが形成する際に取り込まれたと考えられる。これら包有物を含む断面をFIBを用いて作製し、FE-SEM観察と組成分析を行ったところ、包有物はNa, S, Oに富む組成をもつことがわかった。このような物質は、COS粒子の周囲のマトリクス中には含まれていない。また、包有物のホストであるCOS粒子は、Fe酸化物、Fe-Ni硫化物からなるサブミクロンスケールのシンプレクタイト組織をもつことが確認できた。
COS粒子について、NanoSIMSによる酸素同位体分析を行ったところ、周囲のマトリクスに比べ有意に17,18Oに富むこと(δ17O = 159.06 ± 5.79 (1σ) ‰, δ18O = 166.31 ± 3.18 (1σ) ‰)がわかった。これらは、先行研究が報告したCOSの酸素同位体組成[3]に近い。包有物については、粒子径が非常に小さいため酸素同位体組成を得ることは難しく、ホストのCOS粒子との組成差の有無は確認できなかった。
本研究でCOS粒子中に見出だした包有物は、これまで他のCOS粒子からは報告されていない。先行研究の多くはSEMを用いてCOSの観察を行っており、試料表面研磨時に包有物が脱離し観察できていなかった可能性がある。実際に、先行研究に記載されているCOSには空隙が多く見られる。本来は多くのCOSが包有物を含んでいたとすると、形成過程を解明する上で重要となる。本研究では、さらにCOSおよび包有物についてTEMよる微細組織観察と相同定を進め、発表ではそれらの形成過程について議論する。
参考文献:[1] Clayton (1993), Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 21, 115–149. [2] Krot et al. (2002), Science, 295, 1051–1054. [3] Sakamoto et al. (2007), Science, 317, 231–233. [4] Seto et al. (2008), GCA, 72, 2723–2734. [5] Abe et al. (2017), Geochem. J., 51, 3–15.
酸素同位体組成は、惑星物質の起源・生成環境を知る重要な手掛かりである。始原的隕石構成物の酸素同位体は、地球標準海水からの偏差量δ17Oとδ18Oの比がおよそ1となる、軽い組成(δ17,18O: ~-50–0 ‰)をもつe.g.,[1]。このような組成は、通常の物理化学反応に作用する同位体質量分別効果だけではなく、初期太陽系の16Oに富むリザーバーと17,18Oに富むリザーバーの混合によって生じたものと考えられている。前者について、代表物質とされる難揮発性包有物(CAIやAOA)の分析から、酸素同位体組成等の見積もりが行われているe.g.,[2]。また近年、後者の17,18Oに富むリザーバー由来の物質として、宇宙シンプレクタイト(Cosmic Symplectite, COS)と呼ばれる物質がAcfer 094隕石中に報告された[3]。COSは、磁鉄鉱(Fe3O4)と鉄ニッケル硫化物が数十nmスケールで入り組んだシンプレクタイト状の組織を示し、太陽系物質で最も重い酸素同位体組成(δ17,18O: ~180 ‰)をもつ[3,4]。これらは、初期太陽系の17,18Oに富む水もしくは水蒸気と鉄ニッケル金属、硫化物からなる粒子が反応して形成したと考えられているが、岩石鉱物学的な研究は少なく、形成過程については未だ議論の余地がある。本研究では、COSの形成過程の解明を目指し、放射光X線CTによる三次元組織観察とNanoSIMSによる酸素同位体組成分析を行い詳細な特徴を調べた。
結果と考察
初めにAcfer 094隕石研磨片(~2.2 mm2)についてFE-SEM観察を行い、マトリクス中に5個のCOS粒子を見出した。これらの粒子は小さく(~10 µm)、先行研究[5]で報告された繩状組織をもつCOSによく似た形状を示す。このうち1個の粒子を含むブロック(~25×25×30 µm)をFIBを用いて切り出し、SPring-8 BL47XUで高空間分解能(~100 nm)のX線CT撮影を行った。3次元観察から、COS粒子は、表面に多数の凸凹をもつ複雑な外形をもち、内部に微小な(<1 µm)包有物を複数含むことがわかった。包有物が含まれる空間はCOS内部で閉じており、外部と繋がるクラックは見られない。このことから、包有物はCOSが形成する際に取り込まれたと考えられる。これら包有物を含む断面をFIBを用いて作製し、FE-SEM観察と組成分析を行ったところ、包有物はNa, S, Oに富む組成をもつことがわかった。このような物質は、COS粒子の周囲のマトリクス中には含まれていない。また、包有物のホストであるCOS粒子は、Fe酸化物、Fe-Ni硫化物からなるサブミクロンスケールのシンプレクタイト組織をもつことが確認できた。
COS粒子について、NanoSIMSによる酸素同位体分析を行ったところ、周囲のマトリクスに比べ有意に17,18Oに富むこと(δ17O = 159.06 ± 5.79 (1σ) ‰, δ18O = 166.31 ± 3.18 (1σ) ‰)がわかった。これらは、先行研究が報告したCOSの酸素同位体組成[3]に近い。包有物については、粒子径が非常に小さいため酸素同位体組成を得ることは難しく、ホストのCOS粒子との組成差の有無は確認できなかった。
本研究でCOS粒子中に見出だした包有物は、これまで他のCOS粒子からは報告されていない。先行研究の多くはSEMを用いてCOSの観察を行っており、試料表面研磨時に包有物が脱離し観察できていなかった可能性がある。実際に、先行研究に記載されているCOSには空隙が多く見られる。本来は多くのCOSが包有物を含んでいたとすると、形成過程を解明する上で重要となる。本研究では、さらにCOSおよび包有物についてTEMよる微細組織観察と相同定を進め、発表ではそれらの形成過程について議論する。
参考文献:[1] Clayton (1993), Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 21, 115–149. [2] Krot et al. (2002), Science, 295, 1051–1054. [3] Sakamoto et al. (2007), Science, 317, 231–233. [4] Seto et al. (2008), GCA, 72, 2723–2734. [5] Abe et al. (2017), Geochem. J., 51, 3–15.