日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2019年5月27日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:癸生川 陽子(横浜国立大学 大学院工学研究院)、藤谷 渉(茨城大学 理学部)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、松本 恵(東北大学大学院)

[PPS07-P06] 炭素質コンドライトALH A77307におけるコンドリュールリム中のエンスタタイトウィスカーの観察

*代田 泰久1安武 正展1延寿 里美1土山 明1 (1.京都大学理学研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:エンスタタイトウィスカー、始原的炭素質コンドライト

はじめに コンドライト組成をもつ多孔質惑星間塵(CP IDP)は、彗星に起源をもつ太陽系で最も始原的な物質の一つであると考えられている(Bradley et al., 1983)。CP IDPには、エンスタタイトウィスカーと呼ばれるエンスタタイト(MgSiO3)の微小なひげ状結晶が含まれている。エンスタタイトウィスカーは原始太陽系星雲においてガスからの凝縮により形成された物質と考えられている。

一方、炭素質コンドライトの中には変成をほとんど受けていない始原的な特徴を保持している隕石が存在し、Vaccaro et al. (2017)やMatsumoto et al. (2018)は、このような始原的炭素質コンドライトのマトリクス中にエンスタタイトウィスカーを発見した。もし、これらがCP IDPs中のものと同様であるとすると、隕石の起源である小惑星だけでなく彗星の形成過程にも大きな制約を与えることになる。しかしながら、炭素質コンドライト中に見出されたウィスカーの数は少なく、ウィスカーが隕石中に普遍的に存在するかどうか、またCP IDPsに産するものと同様のものであるか、その詳細は未だ明らかにされていない。

本研究の目的は、始原的炭素質コンドライトの詳細な走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、多くのウィスカー状エンスタタイトを見出し、どのような部分にどのような頻度で存在するのかを明らかすることである。また、透過型電子顕微鏡(TEM)による詳細な観察および記載を行い、その起源に制約を与えることを目指した。

サンプルと手法 試料は最も始原的な炭素質コンドライトの一つであるALH A77307(CO3.0)を用いた。Vaccaro et al. (2017)によってこの隕石中に、エンスタタイトウィスカーが存在することが報告されている。組織観察は、京都大学、およびJAXA宇宙科学研究所にて行った。まず、隕石の研磨薄片をFE-SEM(JEOL JSM-7001F, Hitachi HT SU6600)により詳細に観察するとともにEDSによる元素マッピングを行うことでエンスタタイトウィスカーの探索を行った(加速電圧8 kV、プローブ電流100 pA)。これにより見出された一つのエンスタタイト結晶については、京都大学にて収束イオンビーム(FIB)装置(FEI Helios NanoLab 3G CX)を用いて薄膜試料を作成し、TEM(JEOL JEM2100T)による観察と(S)TEM/EDSによる分析を行った

結果と考察 3つのコンドリュールを取り囲む細粒リムにおいて、エンスタタイトウィスカーの探索を行った。これらのリムは、マトリクスと同様に、主に非晶質ケイ酸塩、カンラン石、輝石、Fe,Niメタルの集合体からなる。観察した全ての領域において、合計12本のウィスカー状エンスタタイトを発見した。発見されたウィスカーで最大のものは長さ11.9 µm、幅0.27 µmである。Bradley et al. (1983)をもとにウィスカーの分類を行った結果、アスペクト比が20以上のRodが4本、20以下のRibbonが8本であった。これらの数密度は少なくとも40本/mm2であり、CP IDP中の存在度と比べると低いものの、ウィスカー状エンスタタイトが細粒リムに普遍的に存在する可能性を示唆している。今回発見されたウィスカーの一部には、しなりや折れた部分が観察され、CP IDPs中のものとは異なる。これはウィスカーがリムとして集積した時に変形した結果であると考えられる。

1本のRibbon結晶(長さ1.21µm、幅0.16µm)の薄膜試料をTEMにより観察した結果、c軸方向に伸長した直方エンスタタイトであることがわかった。これは3次元的には、c軸に伸長した柱状結晶か、あるいは(010)に扁平な板状結晶であると考えられる。この結果から、この結晶はCP IDP中のものと同様に原始太陽系星雲中の凝縮過程により形成された板状結晶(Bradley et al., 1983)、もしくは、アニーリングにより非晶質ケイ酸塩から結晶化したもの(Brearley, 1993)である可能性が考えられる。炭素質コンドライト中のウィスカー状結晶のより詳細な成因を明らかにするためには、Rod結晶のようなウィスカー状エンスタタイトのさらなる鉱物学的分析が必要である。

[1] Vaccaro E. (2017) PhD thesis. The Open University. [2] Bradley J. P. et al. (1983) Nature. 301, 473-477. [3] Matsumoto M. et al. (2018) 81st Annual Meeting of the Meteoritical Society [4] Brearley. (1993) Geochim. Cosmochim. Acta 57, 1521-1550