日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 月の科学と探査

2019年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 103 (1F)

コンビーナ:長岡 央(宇宙航空研究開発機構)、鹿山 雅裕(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、座長:田中 智西野 真木(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

10:00 〜 10:15

[PPS08-05] GRAIL重力場データを用いた月大型盆地下のモホ面深さの推定

*西山 学1並木 則行2 (1.東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻、2.国立天文台 RISE月惑星探査検討室)

キーワード:月、地殻、重力、GRAIL、モホロビチッチ不連続面

太陽系の形成史を紐解く上で惑星・衛星の地下構造は内部進化や形成に制約を与えるという点で重要であり、例えば月などの固体天体においては地殻の厚さから形成時のマグマオーシャンのおおよその規模を推測することができる。地殻の厚さを推定する際に有効な手法のひとつが探査機の軌道データ等から計算された重力異常の測定データを用いた手法であり、これまでDownward continuation filterを使用する手法が広く用いられてきている。モホ面の平均の深さ,もしくはある地点での深さを地震データから与え、観測値のブーゲー異常とモホ面の作る重力が等しくなるようにモホ面の起伏を推定している。しかし、この手法では原理的に計算が発散してしまうことを我々は見出した。この発散を作為的に抑えようと作成したフィルターがDownward continuation filterであり、従来の手法でインバージョンされた推定モホ面起伏には,理論的正当性がない。

 今回、Downward continuation filterを用いず、また地殻の厚さの基準値を仮定せずに、月大型盆地地下のモホ面の隆起形状を仮定して推定を行うという新手法を試行した。Crisium盆地の直下ではモホ面が円柱状に盛り上がっているとし、ブーゲー異常をFourier-Bessel級数に展開して北緯17.0°東経59.1°を中心とした軸対称円筒座標系で考える。円柱の半径・上面深度・下面深度を変数としてモホ面の作る重力と海の影響を除いたブーゲー異常のフィッティングを行うと、下面の深さは37.9±7.7 kmと求まる。この値はモホ面の平均的な深さと対応していると考えられるが、Apollo12・14で観測された月震データから推測されるモホ面の深さと整合性がある。我々の試行した新手法を用いることでDownward continuation filterを用いず、また地殻の厚さが未知の場合にも重力のデータのみでモホ面の深さを推定できる。今後はモホ面の形状の影響や、モホ面のたわみなどを定量的に評価する必要がある。