日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 月の科学と探査

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 103 (1F)

コンビーナ:長岡 央(宇宙航空研究開発機構)、鹿山 雅裕(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、諸田 智克(名古屋大学大学院環境学研究科)、座長:橋爪 光長岡 央

10:45 〜 11:00

[PPS08-07] 全球海洋モデルの潮汐応答に基づく月軌道進化の定量的検討

*元山 舞1綱川 秀夫1高橋 太2 (1.東京工業大学理学院地球惑星科学系、2.九州大学理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:月、地球、海洋、潮汐、共振、軌道

地質学的な証拠や地球の固化過程の研究によると、地球・月系が誕生してから数百万年後に地球の海洋が誕生したことが示唆される(Hamano et. al., 2013、Watson & Harrison, 2005、他)。多くの大陸成長モデルは、30-45億年前の大陸地殻は非常に小さかったことを示唆しており(Stein & Ben-Avraham, 2007、他)、初期地球の海洋は全球的に分布していたと考えられ、また全球的に海洋に覆われていたと示唆される期間は約15億年間と比較的長期間である。月軌道進化は、地球の固体潮汐と海洋潮汐による影響が大きいが、海洋の潮汐応答を定量的に組み込んだ軌道進化計算はあまり試みられていない。その理由の一つとして、従来の月軌道計算のほとんどは、現在の月の位置と地球自転等を初期値として、時間的に逆方向に遡っており、大陸移動などは未だに不定性が大きいことがあげられる(Abe et. al, 1997、他)。また潮汐進化に伴う海洋応答は摂動論や数値計算から見積もられてきたが(Webb, 1980、他)、その物理メカニズムは不明瞭である。従って、全球規模の海洋が月軌道進化に及ぼす効果の特徴を明らかにし、海洋に関するパラメーターを容易に取り入れることのできるモデルが必要である。
本研究では、月軌道進化に伴い変化する地球海洋の応答進化を定量的に見積もり、軌道進化を時間に対して順方向に約20億年間に亘り計算した。地球・月は2体問題として扱った。地球・月系形成後、月の軌道は急速に円軌道へ近づき軌道傾斜角は小さくなったことが示唆されているため(Cuk et. al., 2016他)、月軌道は円軌道(離心率=0)で、地球の赤道面上(軌道傾斜角=0)とした。海洋の形成時期を地球・月系の形成からt0年後とし、全球海洋を仮定し海洋深度は全球的に一定とした。固体地球潮汐の影響として、Q値を100 (t<t0) 及び230 (t≥t0)とした。地球岩石の水素同位体比から、海水量は現在の2倍以上存在した可能性が指摘されたが(Kurokawa et. al., 2018、他)、進化過程における海洋量の変化度合いは不定性が大きい。ここでは、進化中に継続的に一定とした場合と、ある期間に減少する場合を検討した。また近年の衛星観測データから、現在の深海域では海底地形によって発生する内部重力波(内部潮汐)に伴うエネルギー散逸が卓越していることが示された(Egbert & Ray, 2000、他)。潮汐流から生じる内部重力波によるエネルギー散逸を考慮したラプラスの潮汐方程式から、数値的に海洋応答による潮汐トルクを計算し、軌道進化を見積もった。
本研究で得られた結果からは、月軌道半径は滑らかに大きくなるのではなく、階段状に時間進化することがわかった。本モデルでは月軌道傾斜角をゼロと固定したが、固有モードが共振する条件は、同一の潮汐力振動数下で生じるため、月軌道傾斜角がゼロでない場合でも階段状進化が生じうると考えられる。この階段状進化のメカニズムを調べるため、海洋の潮位変化を固有モードで展開し、それぞれの固有モードがお互いに及ぼす影響は小さく独立に応答すると仮定し、半解析的に応答関数を導出した。数値解と応答関数によるトルクは明瞭に対応し、海洋の応答は固有モードの応答で構成されていることが明らかとなった。また軌道進化に対する影響として、例えば2600mの海洋深度一定の場合にみられる階段状道進化は、固有モード(8,2)や(6,2)の共振が原因で生じることがわかった。海洋深度が5200mから2600mへ変化する場合は、共振が生じるだけでなく、固有モード(6,2)の共振付近に比較的長期間留まり、それによって生じるトルクが、月軌道進化を継続的に加速し続けることがわかった。ここで、海洋深度に対して各固有モードが共振しうる地球の自転角速度を求め、共振線(固有モード共振の自転角速度及び海洋深度依存性)を得た。これに、数値計算による地球・月系進化トラックをプロットすると、進化経路に応じた海洋応答の状態がわかり、月軌道進化への影響が明らかになる。例えば、進化トラックと共振線が交差すると、そのモードの共振が生じる。解析の結果、本研究で計算したパラメーターの範囲では、固有モード共振が少なくとも1回は生じた。共振する固有モード、及び回数や発生する時期等は、主として海洋深度と内部潮汐係数に依存する。海洋深度が減少する場合は、その効果として、共振線の対応する自転角速度は小さくなる。その結果、進化トラックが共振線付近に留まる状態が、比較的長期間維持されることがわかった。以上のことから、潮汐力進化に伴う海洋応答は、地球・月系の初期共進化に大きな影響を及ぼしたことが示唆される。