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[PPS08-09] 月模擬土壌への微量着氷実験装置の開発と近赤外スペクトル観測
キーワード:月極域探査、着氷実験
近年、月の極域において水氷の存在を示唆する報告がいくつも上がっているが、水の形態や量に関しては議論が続いている。1998年に打ち上げられたLunar Prospector の中性子分光観測によって、極域での水素の濃集が確認された(Feldman et al., 2001)。2009年打ち上げのLunar Crater Observation and Sensing Satellite(LCROSS)では南極のCabeusクレーターに衝突した際のダストを分光観測することで、5.6±2.9wt%の水氷の存在が示唆された(Colaprete et al., 2010)。2008年のChandrayaan-1ではスペクトルの吸収が0.077wt%の水によるものに相当すると報告された(Pieters et al., 2009)。これらを受け、2017年12月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)とインド宇宙研究機関(ISRO)によって月極域での水資源探査計画の検討が始まった。この極域探査において、我々は近赤外画像分光によるその場観測を提案しており、月面または掘削した穴の側面の近赤外スペクトルから水の含有量を推定することを目指している。本研究ではこの探査に向けて、極低温で鉱物表面に霜として水が付着している状態を想定した、実験室での月模擬土壌への着氷実験と近赤外分光観測を行なった。模擬土壌試料としては、San Carlos産かんらん石(Fo90、砕いてからふるいを用いて125-250umに揃えたもの)や清水建設のシミュラント(FJS-1)を用いた。着氷には、自作の着氷実験装置を用いた。これは液体窒素で冷却した模擬土壌を小型のケースに入れ、湿潤空気を通しながら振るという装置で、冷たい土壌試料鉱物一つ一つの粒の表面に空気中の水蒸気が凝結する着氷機構をイメージし作製したものである。ケース上部は近赤外領域にほとんど吸収のないシリカガラスで出来ているため、密封したままスペクトル観測を行なうことができる。分光観測には佐伯が開発した近赤外画像分光装置を用い、波長範囲は950-1600nmで入射角30°、観測角0°で観測を行なった。スペクトル観測の後、霜の質量を計測した。ひょう量は自作のビニールハウス内で行なった。質量計測時に新たに水蒸気が凝結してしまうことがないように、窒素充填して水蒸気をなくしたビニールハウス内で霜付き鉱物の一部をすくい取り質量を計測し、その後ヒーターで加熱して霜を蒸発させ、再び質量を計測することで、減少分を霜の質量とした。この計測値から着氷量を質量分率で計算した。現状での成果として1wt%以下の着氷を達成しているが、この着氷装置では着氷が均質とは言えず、着氷量の制御も難しい。そこで、これらを解決するため新しい「落下式」装置の開発を進めている。この装置は冷却された模擬土壌試料が、湿潤空気の中を落下することで均等に微量の氷が着氷する仕組みで、0.1wt%台の着氷を制御することを目指して落下距離・湿潤空気量の試行錯誤を続けている。最新の開発状況を報告する。