日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 岩石・鉱物・資源

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:野崎 達生(海洋研究開発機構海底資源研究開発センター)、齊藤 哲(愛媛大学大学院理工学研究科)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:野崎 達生(海洋研究開発機構)、齊藤 哲

11:45 〜 12:00

[SCG52-05] 北上山地から見いだされた「ラテライト質」変成岩の化学組成とジルコンU-Pb年代について

*土谷 信高1熊谷 大和1足立 達朗2中野 伸彦2小山内 康人2 (1.岩手大学教育学部地学教室、2.九州大学比較社会文化研究院)

キーワード:ラテライト、変成岩、ジルコンU-Pb年代、岩石化学

北上山地の地質は,シルル紀以前の基盤岩類およびシルル系~下部白亜系の堆積岩類からなる南部北上帯と,ジュラ紀の付加体から構成される北部北上帯に区分される.岩手県大船渡市越喜来湾周辺には,北部北上帯と南部北上帯を境する早池峰東緑断層の延長部が露出しているが,前期白亜紀火山岩類および花崗岩類の分布に隠されているために断層は露出していない.越喜来湾の新釜付近には,北部北上帯の一部とされる釜石層起源のホルンフェルスが露出するが,ここから巨大なザクロ石を含むFe,Alに富む変成岩類が見いだされた.この変成岩類の全岩主成分化学組成を検討したところ,阿武隈変成帯の竹貫変成岩から報告されている,いわゆる「ラテライト」質変成岩(Uruno and Kanisawa, 1965,廣井,2004)に類似していることが分かった.本報告では,この変成岩類の全岩化学組成や鉱物化学組成を竹貫変成岩中の「ラテライト」質変成岩と比較検討するとともに,ジルコンU-Pb年代を報告する.
岩手県大船渡市越喜来湾の新釜付近には,前期白亜紀五葉山花崗岩体周辺相の黒雲母角閃石花崗閃緑岩~トーナル岩と釜石層起源の砂泥質・珪質・塩基性ホルンフェルスおよび結晶質石灰岩が分布する.これらのうち新釜付近の海岸の露頭および新釜東の小沢から,最大15㎜に達する粗粒なザクロ石を含むFe,Alに富む変成岩類が見いだされた.新釜付近のものは,泥質ホルンフェルス中に不規則な形状で産出し,しばしば緑色岩起源ホルンフェルスを伴っている.また新釜東の小沢のものは,結晶質石灰岩中に互層状あるいはレンズ状に包有されて産する.鉱物組み合わせは,新釜のものは斜長石・黒雲母・白雲母・ざくろ石・菫青石±,カリ長石,緑色スピネル±,チタン鉄鉱,アパタイトであり,自形性の強いざくろ石の周囲のみに石英・電気石を含むことがある.新釜東の小沢のものは,斜長石・黒雲母・白雲母・ざくろ石±・菫青石,カリ長石,緑色スピネル,紅柱石±,珪線石±,コランダム±,チタン鉄鉱,アパタイトである.いずれの場合にも,粗粒なざくろ石には割れ目を充填する黒雲母が生じていることが特徴であり,ざくろ石が晶出して一度冷却することによって割れ目が発生した後に,黒雲母が晶出した可能性を示す.しかしながら,廣井 (2004)は同様の産状が冷却過程で生じたとしており,必ずしも2回の変成作用を示す証拠とはならない.またこの変成岩には,自形性の強いざくろ石の周囲以外には石英が含まれないという特徴がある.これは,石英を含む部分は部分溶融してできた液相が固結したものである可能性を示しており,もともとは石英を含まなかったのであろうと考えられる.全岩化学組成の特徴は,新釜のものはSiO2: 40--47%, Al2O3: 18--22%, FeO*: 12--18であり,緑色岩源ホルンフェルスに連続するように見える.また新釜東の小沢のものはより変化に富み,SiO2: 20-42%, Al2O3: 20--38%, FeO*: 14--33%である.これらのうちのSiO2に乏しくAl2O3, FeO*に富むものは,阿武隈変成帯の「ラテライト質」変成岩(Uruno and Kanisawa, 1965)に大変良く似ている.また鉱物組み合わせも阿武隈変成帯の「ラテライト質」変成岩に良く似ているが,十字石が全く見いだされていないことが大きな相違点である.これは,今回発見されたラテライト質変成岩の変成条件が阿武隈変成帯のものと比較して低圧であることを示していると考えられる.
以上の変成岩のうち,新釜から採取されたものからジルコンを分離し,U-Pb年代を測定した.その結果,測定値は2種類の年代に分かれ,0.05mm程度の自形結晶で波動累帯構造が著しいジルコンから126±3Maの,また0.1mm以上の半自形結晶で累帯構造がほとんど認められないジルコンから326±3Maのコンコーディア年代が得られた.前者の若い年代は五葉山花崗岩の貫入による接触変成作用の年代と考えられ,火成ジルコンの特徴を示すことから,接触変成作用で部分溶融した液から晶出したジルコンと考えられる.また後者の古い年代を示すジルコンは,変成作用あるいは熱水変質作用で形成されたものと考えられる.しかしながら,これまでに古い時代の変成作用を示す明確な証拠は得られていないため,326Maの年代は熱水変質作用を示す可能性が高い.その場合,この変成岩の源岩は風化残留土ではなく熱水変質岩であると考えられる.