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[SCG53-01] 滋賀県安曇川の水質に及ぼす花折断層・琵琶湖西岸断層の影響
キーワード:安曇川、活断層、水質、透水性
1.はじめに
断層面周辺では,繰り返しの破壊によって生じた高密度の割れ目が高透水性構造をもたらし,その部分が地下水の通路となる(例えば,Faulkner et al.,2010).結果として,断層と地表が交差する部分に,周辺の地質・地形・降水状況に応じて,水・熱・物質が地下水によって安定的に供給される.例えば,活断層周辺で湧水や温泉が多数認められるというのはよく知られた事実である(小泉・他,1986; 見野・他,1985).活断層は,数千年~数万年に1回という非常な低頻度で大地震を発生させて環境を破壊するが,それ以外の大部分の時期は環境を形成・維持していることになる.
環境の重要要素である河川の水は,一般に,直近の雨に起因して地表から河川に流れ込む地表水と地下水から安定的に供給される水(基底流)の2成分からなると考えられる.したがって,河川の近傍にある活断層は,この基底流を介して,河川水の水質に寄与すると考えられる.
滋賀県西部(湖西地域)にある安曇川は,延長約60km,流域面積約300km2で,琵琶湖に流入する河川の中で,流域面積では第1位,長さでは第2位の河川である(琵琶湖流域研究会,2003).安曇川は,京都市北東部の丹波高地の百井峠付近に発し,北東に10km程度流れた後,花折断層と合流して同断層沿いに30km程度北上した後,東に折れて(花折断層から離れて)20km程度東進し,途中で琵琶湖西岸断層を横断した後に琵琶湖に流入する(図1).このように安曇川は,滋賀県西部の2大断層である花折断層・琵琶湖西岸断層と位置的には密接な関係を持つ.他方,安曇川流域は,滋賀県内の大規模河川としては,最も開発されていない所で,自然河川の性格を比較的よく残しているとされる(琵琶湖流域研究会,2003).したがって,河川水の水質形成における活断層の寄与を研究する上で適した河川と言えるだろう.
本研究では,安曇川における水質の場所的変化,時間的変化を調べ,それらと花折断層・琵琶湖西岸断層との関係について考察した.
2.方法
気象庁の雨量観測点のIMZ(今津)・MNM(南小松)の2つの観測点(図1)で13日間降雨がなかった後の2018年8月12日~14日に,安曇川上流から河口付近までの20点で河川水の水質等現場測定および水のサンプリングを行った(水質空間調査、図1).測定可能な場所では,河川水流量の測定も行った.ただし,8月12日にはIMZで19mm,8月13日にはMNMで7mmの降雨があった.また,KTK(朽木平良)では,8月9日に5.5mm,8月10日と11日に0.5mm,8月12日に1.5mm,13日に6mmの雨があった.図1でUMNとFNKの間が空いているのは,この区間で8月12日に一時的な降雨があり,その部分をさけて水質等の測定およびサンプリングを行った為である.また,2018年4月末からほぼ月1回の頻度で,琵琶湖西岸断層を挟む4点(図1のRYD,HRS,ADG,KTG)で水質等調査(水質時間調査)を行った.以上の結果と,過去の安曇川の水質データや安曇川周辺の温泉の水質データ等を比較検討した.
3.結果
水質空間調査を行った20点すべてにおいて,陽イオンではカルシウムイオンが,陰イオンでは重炭酸イオンが卓越するいわゆるCa-HCO3型の水であった.これらのイオン濃度は,安曇川の上流から下流にかけて増加する傾向にある.そのパターンは,花折断層と安曇川が合流した直後のNKH以降,安曇川が花折断層から離れるARKまで全般的に増加し,それ以降は河口のKTG・HNJまでほぼ一定という形であった.他方,琵琶湖西岸断層を挟むHRSとADGの間で特に水質の変化は認められなかった.また、水質時間調査においては、2018年4月~10月の6回(6ヶ月)分の結果において、降雨による濃度の増減はあるものの、RYD,HRS,ADG,KTGの4点すべてでCa-HCO3型の水で水質に変化はなかった。
以上から,安曇川の水質形成に花折断層が寄与していることが示唆される一方、琵琶湖西岸断層による寄与は確認できなかった。
図1:2018年8月12~14日の安曇川の水質調査地点(●)と気象庁の気象観測点(▲).活断層データース(産業技術総合研究所,2019)の図に加筆.背景の地図は地理院地図(国土地理院,2019).
断層面周辺では,繰り返しの破壊によって生じた高密度の割れ目が高透水性構造をもたらし,その部分が地下水の通路となる(例えば,Faulkner et al.,2010).結果として,断層と地表が交差する部分に,周辺の地質・地形・降水状況に応じて,水・熱・物質が地下水によって安定的に供給される.例えば,活断層周辺で湧水や温泉が多数認められるというのはよく知られた事実である(小泉・他,1986; 見野・他,1985).活断層は,数千年~数万年に1回という非常な低頻度で大地震を発生させて環境を破壊するが,それ以外の大部分の時期は環境を形成・維持していることになる.
環境の重要要素である河川の水は,一般に,直近の雨に起因して地表から河川に流れ込む地表水と地下水から安定的に供給される水(基底流)の2成分からなると考えられる.したがって,河川の近傍にある活断層は,この基底流を介して,河川水の水質に寄与すると考えられる.
滋賀県西部(湖西地域)にある安曇川は,延長約60km,流域面積約300km2で,琵琶湖に流入する河川の中で,流域面積では第1位,長さでは第2位の河川である(琵琶湖流域研究会,2003).安曇川は,京都市北東部の丹波高地の百井峠付近に発し,北東に10km程度流れた後,花折断層と合流して同断層沿いに30km程度北上した後,東に折れて(花折断層から離れて)20km程度東進し,途中で琵琶湖西岸断層を横断した後に琵琶湖に流入する(図1).このように安曇川は,滋賀県西部の2大断層である花折断層・琵琶湖西岸断層と位置的には密接な関係を持つ.他方,安曇川流域は,滋賀県内の大規模河川としては,最も開発されていない所で,自然河川の性格を比較的よく残しているとされる(琵琶湖流域研究会,2003).したがって,河川水の水質形成における活断層の寄与を研究する上で適した河川と言えるだろう.
本研究では,安曇川における水質の場所的変化,時間的変化を調べ,それらと花折断層・琵琶湖西岸断層との関係について考察した.
2.方法
気象庁の雨量観測点のIMZ(今津)・MNM(南小松)の2つの観測点(図1)で13日間降雨がなかった後の2018年8月12日~14日に,安曇川上流から河口付近までの20点で河川水の水質等現場測定および水のサンプリングを行った(水質空間調査、図1).測定可能な場所では,河川水流量の測定も行った.ただし,8月12日にはIMZで19mm,8月13日にはMNMで7mmの降雨があった.また,KTK(朽木平良)では,8月9日に5.5mm,8月10日と11日に0.5mm,8月12日に1.5mm,13日に6mmの雨があった.図1でUMNとFNKの間が空いているのは,この区間で8月12日に一時的な降雨があり,その部分をさけて水質等の測定およびサンプリングを行った為である.また,2018年4月末からほぼ月1回の頻度で,琵琶湖西岸断層を挟む4点(図1のRYD,HRS,ADG,KTG)で水質等調査(水質時間調査)を行った.以上の結果と,過去の安曇川の水質データや安曇川周辺の温泉の水質データ等を比較検討した.
3.結果
水質空間調査を行った20点すべてにおいて,陽イオンではカルシウムイオンが,陰イオンでは重炭酸イオンが卓越するいわゆるCa-HCO3型の水であった.これらのイオン濃度は,安曇川の上流から下流にかけて増加する傾向にある.そのパターンは,花折断層と安曇川が合流した直後のNKH以降,安曇川が花折断層から離れるARKまで全般的に増加し,それ以降は河口のKTG・HNJまでほぼ一定という形であった.他方,琵琶湖西岸断層を挟むHRSとADGの間で特に水質の変化は認められなかった.また、水質時間調査においては、2018年4月~10月の6回(6ヶ月)分の結果において、降雨による濃度の増減はあるものの、RYD,HRS,ADG,KTGの4点すべてでCa-HCO3型の水で水質に変化はなかった。
以上から,安曇川の水質形成に花折断層が寄与していることが示唆される一方、琵琶湖西岸断層による寄与は確認できなかった。
図1:2018年8月12~14日の安曇川の水質調査地点(●)と気象庁の気象観測点(▲).活断層データース(産業技術総合研究所,2019)の図に加筆.背景の地図は地理院地図(国土地理院,2019).