日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG53] 活断層による環境形成・維持

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、山野 誠(東京大学地震研究所)、笠谷 貴史(海洋研究開発機構)、濱元 栄起(埼玉県環境科学国際センター)、座長:小泉 尚嗣後藤 忠徳(京都大学大学院工学研究科)

11:45 〜 12:00

[SCG53-05] 1995年兵庫県南部地震後の野島断層帯の回復過程

*村上 英記1大志万 直人2吉村 令慧2三浦 勉2加茂 正人2 (1.高知大教育研究部自然科学系、2.京都大学防災研究所)

キーワード:野島断層、断層回復過程、注水実験、自然電位

1995年兵庫県南部地震(Mj7.3,Mw6.9)の地表地震断層である野島断層は,六甲・淡路島断層帯に属し,淡路島の西岸部を北東-南西方向に走る長さ約10kmの横ずれ断層である。1995年の地震発生時には,断層南東側(山側)が南西方向に約1-2m右横ずれし,同時に約0.5-1.2m隆起した。断層の掘削調査により,兵庫県南部地震に先行する地震活動は約1100~2400年前と推定されている(産業技術総合研究所,2002)。また,淡路島の東部海岸沿いに走る東浦断層は最新の活動時期は1596年伏見地震に近い時代で,平均活動間隔は約1400~2200年と見積もられている。このような地震活動により現在の淡路島の地形が形成されている。

 野島断層における約2000年を隔てた地震活動の中で,どのように断層は次の地震に向けて準備をしていたのであろうか。1995年の活動のあと断層周辺部の状態の経年変化(固着過程)を明らかにすることを目的として,野島断層に掘られた1800mのボーリング孔を使用した注水実験が1997年から2018年の間に8回実施された。この注水実験では,注水にともなう湧水量の変化,ボーリング孔内の歪計,微小地震活動,アクロスによる地震波速度の変化,とともに自然電位の変化が計測された。

 ここでは,最後の注水実験となった2018年12月の注水実験時に計測した自然電位の測定結果を紹介するとともに,注水にともなう自然電位変動を使い地下の状態(透水に関わる状態)を推定する方法について紹介する。2018年の注水実験においても従来の注水実験と同様に,注水にともなう自然電位変動が観測された:1)注水の開始・停止に同期した電位変動,2)注水孔周辺が負に変動する,3)変動の大きさは注水孔からの距離が大きくなると小さくなる。これら3つの特徴は,ボーリング孔から流出した水が周囲の岩石中を流れることにより発生する流動電位がボーリング孔ケーシングパイプを伝わり地表に電位変動を伝えるというモデルで説明できる(Murakami et al.,2001,2007)。このモデルでは,水の流量(J)と電位変動から推測する電流量(I)の比が,水理係数(透水係数,空隙率,屈曲度の関数)と電気的係数(水の誘電率,ゼータ電位の関数)の比になる。電気的係数に大きな経年変化がないと仮定すると,J/Iの経年変化は水理係数の経年変化を表すことになる。J/Iの値は,1997年から2003年にかけて小さくなっている。予察的な結果であり今後修正する可能性はあるが,2018年の結果は1997年から2000年の上限値よりも小さく,2003年よりも大きいという結果であった。1997年から2003年にかけての減少は,経年的に注水した水が周囲に拡散しにくくなったことを意味し,地震後の数年で断層周辺の固着過程がある程度進行したことを推測させる。2000年のサイクルの極めて短い期間に,次の地震に向けての準備がすすんでいる様子が分かってきた。

 本研究は,東京大学地震研究所特定共同研究(A)課題番号1906「注水実験による内陸地震の震源断層の詳細な構造と回復過程の研究」により実施された。