日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:田阪 美樹(島根大学)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、石橋 秀巳(静岡大学理学部地球科学専攻)

[SCG54-P01] 第一原理計算による層状鉱物gibbsiteの摩擦特性の研究

*奥田 花也1河合 研志1佐久間 博2 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.国立研究開発法人物質・材料研究機構機能性材料研究拠点)

キーワード:層状鉱物、結晶構造、摩擦特性、Gibbsite、第一原理計算

層状の結晶構造を持つ層状鉱物は断層の剪断部に多く存在することが知られている(e.g. Chester et al., 2013)。層状鉱物は一般的な岩石に比べて低い摩擦係数を持ち、かつ鉱物種によって多様な摩擦係数を示すことから、層状鉱物の摩擦特性は断層のすべり挙動を支配していると考えられている(Byerlee, 1978; Moore & Lockner, 2004)。この低く多様な層状鉱物の摩擦特性は、原子スケールの真実接触面を考え、層状鉱物の層間における剪断時のポテンシャルエネルギー変化と物質の降伏強度から理論的に推測できることがSakuma et al. (2018)やOkuda et al. (submitted)によって近年示唆されている。

本研究では水酸化マグネシウムの層状鉱物bruciteと水酸化アルミニウムの層状鉱物gibbsiteの摩擦特性に着目する。Moore & Lockner (2004)の摩擦実験ではbruciteの摩擦係数は0.42でかつstick-slipを示す一方、gibbsiteの摩擦係数は0.75で定常すべりを示す。この二つの鉱物はそれぞれMgO6とAlO6の八面体が二次元平面に広がった層(八面体シート)を形成する層状結晶を成し、共にほぼ同じような結晶構造を示す(図1)。その違いはMgとAlの価数の違いに伴ってbruciteが八面体シート中に空席を持たないのに対し、gibbsiteは八面体シート中に1/3の空席が存在することである(図2)。この二種類の八面体シートは層状珪酸塩の基本構造であり、八面体シートの結晶構造の違いが摩擦特性に与える影響を調べることは層状鉱物の摩擦特性の支配要因を明らかにする上で重要である。発表者はこれまでbruciteの摩擦特性について理論的な研究を行ってきた(Okuda et al., submitted)。本研究ではgibbsiteにおいて層間における原子スケール摩擦特性を密度汎関数法に基づく第一原理電子状態計算を用いて計算し、bruciteとの比較を行った。

予察的な結果においては、原子スケールにおいてgibbsiteはbruciteより低い剪断応力で剪断することが可能であることが明らかとなった。これは八面体シート中の空席の存在により、八面体シートから伸びるOH基の角度が大きく変化することが可能であることにより、gibbsiteの方がbruciteより剪断時にエネルギー的に安定な構造を容易に取りやすいことに起因している。またgibbsiteの降伏強度はモース硬度から推定すると1~2 GPaである(Mehrotra et al., 2015; Broz et al., 2006)。これはbruciteの降伏強度4.0 GPa (Okuda et al., submitted)と比べて小さい。摩擦の凝着説を考えると、この小さい降伏強度は摩擦係数を大きくする効果を持つ。発表においては原子スケール摩擦特性の定量的な議論および降伏強度を考慮したマクロな摩擦特性の推定を行い、bruciteとgibbsiteの摩擦特性の違いが何によって支配されているかについて議論を行う。