日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 地殻流体と地殻変動

2019年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 A11 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(弘前大学大学院理工学研究科)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、座長:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

10:05 〜 10:25

[SCG55-05] 八代海海底活断層分布地域のラドン濃度分布

★招待講演

*川端 訓代1角森 史昭2北村 有迅1白鳳丸 KH18-3次研究航海乗船者一同 (1.鹿児島大学理工学研究科、2.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

キーワード:水中ラドン濃度、海底活断層、八代海、ガンマ線測定、熊本地震

平成28年熊本地震を引き起こした布田川-日奈久断層帯の南方延長にあたる八代海において水中ラドン濃度調査を行った.

ラドン(222Rn)はウラン系列の放射性同位体であり,半減期3.82日でα線を放出して壊変する.岩石中で生成されたラドンは鉱物表面や鉱物境界に近い場所に存在する場合岩石の隙間や大気中に放出される.水に対する溶解度が高く岩石の間隙流体や地下水に用意に溶け込むことが知られている.この性質を利用し,近年では,水中ラドン濃度を利用し,活断層を含む断層帯と地下水の関係が議論されている(例えば,Malgrange and Gleeson, 2014, Tsunomori et al., 2017).大規模な活断層はほぼ同じ位置で何度も破壊を繰り返している.このため,活断層による破砕帯は間隙率が高く地殻内で水の通路となるほか,周囲の母岩に比べて著しく鉱物や岩石の比表面積が高くなる(例えばChester et al., 2005; Ma et al., 2006).母岩に比べ比表面積が大きい場合ラドン濃度が高くなると期待され,活断層の位置特定やその活動度の評価に関する研究が行われている(Tsunomori et al., 2017).

九州西部に位置する八代海には多数の海底断層群が認められており,布田川・日奈久断層帯における日奈久断層帯の南西部「八代海区間」を構成している(地震調査研究推進本部).本地域は平成28年4月に発生した熊本地震で活動した日奈久断層の延長にあたり,活断層分布域において浅部地震が発生しており,活動的な地域となっていると考えられる.2018年7月八代海において,熊本地震や歴史地震によって誘発された海底地滑り調査が行われた(白鳳丸KH-18-3).我々は本調査航海に参加し,海底活断層の分布とラドン濃度分布の関係についての調査を行った.
ラドン濃度測定のための試料として,マルチコアの直上水,ピストンコアの直上水及び間隙水の採取を行った.ラドン濃度測定の結果,最も北に位置する測線上(Y18a)においてマルチコア直上水のラドン濃度が他のサイトより高くなる傾向が認められた.同様にピストンコアの直上水においてもY18a測線上のサイトのラドン濃度が高くなった.ラドン濃度が変化する理由として (1)堆積物に含まれるラジウム濃度の違い,(2)堆積物の粒径や間隙率などの物性が異なることが考えられる.後者は堆積物の種類が異なる,もしくは活断層の存在などによる堆積物の物性の差が生じると考えられる.Y18a測線は田浦-津奈木沖断層群のFA1断層(楮原他2011)を横切っているため,ラドン濃度異常は活断層の影響が示唆される.本講演では活断層を含む海底下の構造や堆積岩のラジウム濃度分布とラドン濃度分布を比較し,ラドン濃度の差を生じさせる要因について議論を行う.