日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 海洋底地球科学

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、座長:本荘 千枝石川 直史

14:15 〜 14:30

[SCG56-15] GNSS-A観測から検出した浅部スロースリップ

*石川 直史1横田 裕輔2 (1.海上保安庁海洋情報部、2.東京大学生産技術研究所)

キーワード:GNSS-A海底地殻変動観測、スロースリップ

南海トラフ地震震源域をはじめとする海溝型巨大地震の震源域では、陸域の稠密な地震・地殻変動観測網により、プレート境界深部における多様なスロー地震が検出され、その研究が進展している。一方、海域にあたるプレート境界浅部においては、海域観測の難しさから、その調査は限定的である。近年の海底地震計、海底圧力計、孔内観測などの海域観測の進展により、プレート境界浅部においても低周波微動や短期的スロースリップイベント(SSE)が捉えられるようになってきた(例えば、Yamashita et al., 2015, Wallace et al., 2016, Araki et al., 2017)。

スロー地震の中でも、数ヶ月を超えるような時間スケールを持つ長期的SSEは、プレート境界深部においては、長期の変動に感度をもつGNSSによって検出されている。そのアナロジーから、プレート境界浅部においてその役割を担うのはGNSS-音響測距結合方式による海底地殻変動観測(GNSS-A)となる。しかしながら、GNSS-A観測は、観測の都度船で現場に赴くという観測スタイルであることから、年間の観測回数が数回程度である。また、測位精度も標準偏差で2~3cm程度である。長期的SSEは、数ヶ月〜1年程度の間に数cmという短期で微小な変化であるため、GNSS-A観測での検出は困難である。

我々の観測グループでは、SSEの様な短期で微小な減少を検出するための技術開発を進め、年間の観測頻度6〜8回、観測精度を2cm程度まで改善することに成功した(横田ほか2017、Yokota et al., 2018)。その結果、2017年末頃から紀伊水道沖において、浅部のSSEに起因すると考えられる非定常な地殻変動の検出に成功した。

この時の地殻変動は、最大で10cm程度におよぶ比較的規模の大きなものであったため、GNSS-Aの観測でも比較的容易に捉えることが可能であった。さらに小さな規模のSSEを検出することを目指して、ばらつきの大きい時系列データからの微小な変化を客観的に検出する方法についての検討を行った。Nishimura et al. (2013)はAICを用いた検定によってGNSSデータから深部の短期的SSEの検出を試みた。同様の手法をGNSS-Aデータ用に修正して、浅部のSSEの検出を試みた結果、紀伊水道沖だけではなく、熊野灘や日向灘の浅部においてもSSEとみられる通常とは異なる変動が検出された。統計的に非定常な変動を検出する方法は多様であり、AICはその一例である。さらに他の統計的手法の適用についても検討を進める必要がある。

AICで検出された変動について、グリッドサーチによって最適な断層モデルを求めた。しかしながら、現在の観測点は80〜100km間隔であるため、変動が現れている観測点は1〜2点程度である。そのため断層の推定にも大きな不確定性がともなっていると考えられる。