15:45 〜 16:00
[SCG56-20] IPR(Indirect Path Ranging):中継機を利用した長基線音響測距を可能にする手法
キーワード:海底測地、海底間音響測距、係留系音響測距、東北地方太平洋沖地震、余効すべり
GNSS-音響結合方式(GNSS-A)や海底圧力計(OBP),海底間音響測距(DPR)などの海底測地技術は,海域の地殻変動をその場で計測するものである.特にDPRは海底の局所的な変位を,精密かつ連続的に直接測ることができる.DPRは海底に設置された2対の音響トランスデューサーの間で定期的に音響測距を行う手法で,1 kmの基線の場合,海中の環境にも依るが,およそ1–2 mmの精度である.観測期間は,ポップアップ回収の有無にもよるが,現状では3年以上の計測が可能であることがわかっている.しかし,DPRの一番の難点は,基線が長くなるほどトランスデューサー間の音響パスを海底地形と干渉させずに通すのが難しいことである.例えば10 kmの基線の場合,通常の音速深度勾配下では音線は142 mも下に湾曲する.また,海底局の設置点周辺の地形図には現れない局所的な起伏により音響パスが阻まれるケースも多い.
そこで,本研究では,音響パスの中ほどに音響中継器を設置し,確実にパスを通す手法を開発した.中継機を介した間接測距となるためIndirect Path Ranging(IPR)と呼ぶ.Sweeney et al. (2005, Mar. Geod.) は,船から海底500 mの高さに中継機を吊り下げたキャンペーン観測で,5 kmの基線を数cmの精度で計測できたと報告している.一方,本研究で開発した手法は,連続観測が可能なよう中継機を中層係留する方式である.IPRでは,各パスの測距中に中継機が動くと計測精度が下がるため,船のヒーブの影響を受けやすい吊り下げ式よりも,安定した深海での係留式の方が有利であると考えられる.
観測は,2011年東北地方太平洋沖地震の余効すべりが沈み込み浅部で顕著であるという報告がある福島沖 (e.g., Iinuma et al., 2016, Nature Comm.) を選び,2017年10月から2018年8月までの10ヶ月間の観測を行った.5台の海底局を海溝斜面に設置し,その中心付近の海溝軸に中継機を係留した.1500 mの係留索を用いて,中継機と他の海底局の水深がほぼ同じになる配置とした.海溝の谷地形を利用したが,基線が長いこともあり,DPRではわずか1基線でしかパスが通らなかったものの,中継機を介したIPRでは5本すべての基線でパスが通った.海底局と中継機との基線長は最長で9180 mだが,その基線でも観測期間の8割以上の期間でパスが通っていることが確認できた.
まず,中継機から同時測距可能な4台の海底局の往復走時から,中継機の位置を推定する初期解析を行った.その結果,各局の走時残差が距離換算で10 cm程度のばらつき(RMS)で,中継機の動きを推定できた.中継機はほとんどの期間,半径50 mの円内での動きに収まっていたが、最大300 mのエクスカーションも見られた.音響パスが全て水平に近いので,上下の動きの推定精度は著しく悪いと予想されるが,圧力データを併用することで上下の動きを強く制約できる見込みである.もっとも,中継機の上下位置の不確定性は基線長推定への寄与は小さいので,あまりクリティカルではない.今後,往復走時に音速補正を施し,より正確に中継機の位置を推定した後,中継された基線長を推定する予定である.
謝辞:本研究は科研費(JP26000002)の支援で行われました.観測機器の設置・回収は新青丸航海(KS-16-14; KS-18-13)及び白鳳丸航海(KH-17-J02)で行われました.
そこで,本研究では,音響パスの中ほどに音響中継器を設置し,確実にパスを通す手法を開発した.中継機を介した間接測距となるためIndirect Path Ranging(IPR)と呼ぶ.Sweeney et al. (2005, Mar. Geod.) は,船から海底500 mの高さに中継機を吊り下げたキャンペーン観測で,5 kmの基線を数cmの精度で計測できたと報告している.一方,本研究で開発した手法は,連続観測が可能なよう中継機を中層係留する方式である.IPRでは,各パスの測距中に中継機が動くと計測精度が下がるため,船のヒーブの影響を受けやすい吊り下げ式よりも,安定した深海での係留式の方が有利であると考えられる.
観測は,2011年東北地方太平洋沖地震の余効すべりが沈み込み浅部で顕著であるという報告がある福島沖 (e.g., Iinuma et al., 2016, Nature Comm.) を選び,2017年10月から2018年8月までの10ヶ月間の観測を行った.5台の海底局を海溝斜面に設置し,その中心付近の海溝軸に中継機を係留した.1500 mの係留索を用いて,中継機と他の海底局の水深がほぼ同じになる配置とした.海溝の谷地形を利用したが,基線が長いこともあり,DPRではわずか1基線でしかパスが通らなかったものの,中継機を介したIPRでは5本すべての基線でパスが通った.海底局と中継機との基線長は最長で9180 mだが,その基線でも観測期間の8割以上の期間でパスが通っていることが確認できた.
まず,中継機から同時測距可能な4台の海底局の往復走時から,中継機の位置を推定する初期解析を行った.その結果,各局の走時残差が距離換算で10 cm程度のばらつき(RMS)で,中継機の動きを推定できた.中継機はほとんどの期間,半径50 mの円内での動きに収まっていたが、最大300 mのエクスカーションも見られた.音響パスが全て水平に近いので,上下の動きの推定精度は著しく悪いと予想されるが,圧力データを併用することで上下の動きを強く制約できる見込みである.もっとも,中継機の上下位置の不確定性は基線長推定への寄与は小さいので,あまりクリティカルではない.今後,往復走時に音速補正を施し,より正確に中継機の位置を推定した後,中継された基線長を推定する予定である.
謝辞:本研究は科研費(JP26000002)の支援で行われました.観測機器の設置・回収は新青丸航海(KS-16-14; KS-18-13)及び白鳳丸航海(KH-17-J02)で行われました.