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[SCG56-29] 高分解能SBPから得られた付加体斜面堆積盆の堆積構造とその形成過程の検討:室戸沖南海付加体の例
キーワード:斜面堆積盆、付加体、サブボトムプロファイラー
上盤プレートには,海洋プレートの沈み込みに伴う様々な力学的現象が記録される.その中で付加体表層の堆積盆の堆積構造は,地層の傾動を記録し,プレート境界断層やそれに付随する付加体中の衝上断層の活動史を推定できる.海溝斜面に見られる堆積盆は水深が深く,反射法地震探査では一般に,水中での音波の減衰を軽減するために低い周波数の発信源が用いられる.低周波の震源は大構造の把握には有用であるが,得られるデータの解像度が低くなってしまうため海溝域の堆積盆において浅部の微細な構造を解析した研究例は少ない(例えば,Tsuji et al., 2014) .そこで本研究では,南海付加体の斜面堆積盆を研究対象とし,学術研究船「白鳳丸」KH-16-5次航海において深海曵航式のサブボトムプロファイラー(Subbottom Profiler: SBP)から得られた空間解像度の高い地下構造断面図を使用して,構造の解釈と堆積盆の形成過程の検討を行った.対象の堆積盆は室戸沖南東方向約80 km,水深約3000 mに位置し,北西—南東方向に8 km,北東—南西方向に6.5 kmのほぼ楕円形をしている.この堆積盆からおよそ1 km海側には明瞭な正断層成分を含む横ずれ断層が,さらにそこから2 km海側には分岐断層が確認されているため(Underwood et al., 2003),堆積盆はこれらの断層の活動履歴を記録している可能性がある.また,堆積盆の北には沈み込んだ海山の存在も確認されており(Kodaira et al., 2000),堆積盆の形成に影響を与えた可能性がある.堆積盆内とその3kmほど海側の地点ではOcean Drilling Program (ODP) Leg 190にて計2本のボーリングコア試料(Site 1175とSite 1176)が採取されており,本研究ではSBPの反射断面の解釈の結果とこれらのコア試料の堆積構造や堆積年代の対比も行った.SBPの断面図には分岐断層や横ずれ断層,小断層と随伴して形成された高まりなどが確認された.この高まりの最頂部(中央部)には逆断層成分を含む横ずれ断層も確認された.堆積盆を含む横ずれ断層の陸側の領域では、陸側に向かって相対的な沈降を示す構造が見られた.また、この領域の堆積中心は陸側へ移動しており、反射法地震探査断面(Shipboard Scientific Party, 2001)とも調和的である.Site 1175付近では深度方向に地層の傾斜が大きくなっていることから,継続的に傾動が起こっていたと考えられる.更に,高まりの最頂部の横ずれ断層から陸側の領域では正断層のみが確認された.特に堆積盆の中に見られる4本の正断層は海底面まで到達しており,深度方向に変位量が累積して大きくなることから,最近まで繰り返し活動していたと考えられる.また,堆積盆には陸側斜面から流入したと考えられる地すべり移動体も確認された.これに対して横ずれ断層の海側では分岐断層の一員をなす逆断層が含まれる.SBPの反射断面からは明瞭な逆断層や正断層が確認された.特に高まりの海側半分では逆断層が卓越しているものの,海底面まで到達しているものは見受けられなかった.次に、SBPの反射断面とODP Site 1175, 1176の層序を比較した結果,SBP中の反射面は火山灰層や砂層と非常によく対応することが確認された.火山灰の追加分析も含めた堆積年代との比較の結果,横ずれ断層より陸側の傾動は約28 kaまでには沈静化したことが示唆される.SBPの深度限界のため傾動の開始時期は推定できないが,Site 1175付近の傾動がおよそ105 kaの反射面でも確認できるため,堆積盆の傾動は105 kaには始まっていたと考えられる.また,両領域の境界部の断層群は,およそ28 kaの反射面を境に上位の反射面を貫く断層の数が減少し,さらに海底面を切る断層は中央部の横ずれ断層を除き確認されていない.これらの結果から,本研究で対象とする堆積盆の表層に見られる傾動は,領域Bの分岐断層によって形成された可能性が高い.その活動は遅くとも約105 kaには始まり約28 kaには終わっていたことが示唆される.このように,深海曵航SBP断面図の構造とコア試料中の詳細な層序の検討を組み合わせることで,従来よりも高い時間分解能で断層活動や堆積盆の消長を復元できる可能性がある.