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[SCG57-01] 北海道北部における最近の地震活動
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キーワード:北海道北部の地震活動、オホーツク・プレート西縁地震帯、群発地震、スロー地震、グーテンベルグ・リヒター則、b-値
本発表は北海道北部の最近の地震活動をプレートテクトニクス的観点から考察し、そこでの潜在的地震災害を理解するために行った調査報告である。平成24年(2012年)7月15日から7月18日かけて北海道北部の中川町周辺(音威子府付近)で震度4の揺れを感じさせたマグニチュードM4程度の中規模地震を含む群発地震が発生した(気象庁・地震火山月報・防災編、2012). また震源域周辺では地震計では捉えることができないスロー地震もほぼ同時期に確認された(Ohzono et al., 2015, 池田将平., 2016)。これらの観測から推定された当地域の最大水平ストレス成分はほぼ東西方向にあり、Loveless and Meade (2010)がGlobal Positioning System (GPS)データから見積もった13.0±2.1 mm/y ~ 8.4±2.1 mm/yの E-W の東西圧縮場と調和的である。さらに北海道下には太平洋プレートが千島海溝軸に対して南西方向に斜め沈みつつあるが、その上盤の北海道はユーラシア・プレート、北米プレートと作用し合う、3重合プレート・テクトニクス場でもある。Den and Hotta(1973) は地震探査、重力、地磁気、地殻熱流量などの地球物理学的分布が北海道中軸を境に東西両側で異なることから、中生代から古第三紀にカムチャッカ、オホーツク海、サハリン、及び、北海道中軸以東からなるオホーツク・プレートを初めて提唱し、北海道中軸付近でオホーツク・プレートとユーラシア・プレートとの衝突をいち早く提案した。しかし気象庁地震カタログには1985年以降にこのプレート境界付近の北海道北部で発生したM6を超えた大きな被害地震はなく、現在のオホーツク・プレートの境界を規定する地震学的情報は極めて少なかった。そのような低い地震活動下において、1995年阪神・淡路大震災を契機に地震に関する調査研究の推進のための体制の整備等が図られ、日本の最北端に位置する道北でも地震や地殻変動の観測網が整備され、オホーツク・プレート西縁に位置する北海道北部での地震の検知能力が向上し、小さな地震も捕捉されるようになった。そこで、ここでは1996年1月1日〜2018年10月30日の期間に北緯44.2度〜北緯45.5度、東経141.5度〜東経142.5度の領域内で起こったM2以上の地震を用いて、北海道北部地域の地震活動の特性を調べてみた。その結果、ほとんどの地震の震央は、日本海沿岸とほぼ平行に、南北約200km × 東西約40kmの細長いゾーン内(オホーツク・プレート西縁地震帯)に分布し、その東縁は北部の内陸中央にある宗谷丘陵中央部沼川から音威子府を経由し、朱鞠内湖あたりまで追跡できる。一方その東縁を境にオホーツク海側の地震活動は極めて低く、東西での地震活動分布の違いが明瞭であるが、現在のところ、その理由は明らかでない。また中川付近で観測された2012年のイベントは、2008年4月28日羽幌付近の群発地震を契機にゾーン内の地震発生レートが約2倍になった最高の活動期に発生した。これらの中川でのイベントを契機に天塩、幌延付近でもM4を超える地震が誘発され、地震活動が加速された。さらにゾーン内で起こった地震の規模別頻度分布から推定されたGR-則のb-値は0.87と見積もられた。若干小さいb-値ではあるが、標準的な地震活動特性を示した。またこの分布から推定された当地域の可能な最大地震規模は約M5程度である。一方地震本部の長期評価(2007)によれば、当地域にあるサロベツ断層帯を一斉に破壊させる地震の大きさはM7.6 である。今回の調査期間(2.7年間)でM5の地震が1つ起きたことから推して、M7.6の地震1個の発生確率は0.0055と推定され、その発生間隔は183年間と見積もられた。ただこの種の長期間隔で発生する大地震を予想するには今回の調査期間は極めて短かく、その信頼性を議論するには新たな調査が必要である。以上が地震観測が整備された1990年後半以降の地震資料に基づいて初めて明らかになった北海道北部における最近の地震活動の特性である。