日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 日本列島の構造と進化: 島弧の形成から巨大地震サイクルまで

2019年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:佐藤 比呂志(東京大学地震研究所地震予知研究センター)、篠原 雅尚(東京大学地震研究所)、石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、松原 誠(防災科学技術研究所)

[SCG57-P03] 下北半島,中新世泊層火山岩類の岩石化学 ―微量元素組成およびSr-Nd-Hf-Pb同位体組成―

*相澤 正隆1稲葉 充2岡村 聡3,4新城 竜一5 (1.琉球大学 理工学研究科、2.GeoPuck Association、3.北海道教育大学、4.北海道土質試験協同組合、5.琉球大学 理学部)

キーワード:中新世、火山フロント、日本海、背弧海盆、泊火山岩

はじめに
 中新世の東北日本弧火山フロントにあたる青森県下北半島の泊層火山岩類は,未分化ソレアイト質玄武岩がみられるなど(滝本,1986,岩鉱),日本海拡大を引き起こしたアセノスフェア湧昇流との関連が強く示唆される.本層は13〜15 MaのK-Ar年代値を示し(Watanabe et al., 1993, J. Min. Petr. Geol.),4つの火山活動ステージに区分されI期からIV期へ活動時代が新しくなる(周藤ほか,1988,地質雑).本研究では,青森県むつ市において原子力規制庁により掘削されたボーリング試料(SN-010;掘止深度1484 m)を用いる.本コアは308.82 m以深に泊層火山岩がみられ,深度385 mで13.1〜14.5 Maの微化石年代,および467 mで16.0 Ma,818 mで24.2 MaのU-Pb年代が得られている(原子力規制庁,2016).

泊層火山岩の岩相と産状
 本研究では,SN-010コアの8つの深度,および地表のI期,II期の泊層火山岩から試料を採取した.
563.48-563.70 m火山角礫岩
862.26-862.42 m溶岩
999.00-999.16 m火山礫凝灰岩
1003.20-1003.35 m溶岩
1197.86-1200.00 m火山礫凝灰岩
1246.40-1246.55 m火山礫凝灰岩
1335.87-1336.00 m火山礫凝灰岩
1482.00-1482.27 m火山礫凝灰岩
 地表のI期火山岩は,赤色の火山円礫が層状構造を示す堆積層中にみられ,枕状溶岩の産状を示すことがある.II期火山岩は枕状溶岩・ハイアロクラスタイトを中心とする.

地球化学的特徴
 コアの泊層火山岩類は,浅部コア(862.26 m以浅)と中部コア(999.00 m―1003.20 m)が中間K系列,深部コア(1197.86 m以深)が低K系列を示す.不適合元素濃度は浅〜中部コアで高い傾向があり,特にLILEで顕著である.地表のI期・II期泊層火山岩は中間K系列を示し,不適合元素の傾向は浅〜中部コアに類似する.N-MORB規格化パターンはいずれも高いLILE,Nb-Taの負異常,Pbの正異常がみられ,沈み込み帯における火成活動の特徴を示す.Sr-Nd同位体組成は,中〜深部コアはやや枯渇した組成,浅部コアはやや肥沃な組成を示す.Pb同位体組成は層準ごとの明瞭な差異は見られず,いずれも東北日本弧の第四紀火山フロント火山岩の組成範囲にプロットされる.なお,発表ではHf同位体組成も報告する予定である.未分化ソレアイト質玄武岩は地表のII期火山岩に産出し,最も肥沃な同位体組成を示す(Hanyu et al., 2006, G3).この未分化玄武岩を含む地表の火山岩と浅〜中部コアは,深部コアに比べてより高いBa/Nbを有する.

日本海拡大イベントとの関係
 SN-010コアの年代値は,泊層の活動が後期漸新世〜前期中新世には既に開始していたことを示唆する.全岩化学組成は563.48 mの試料と地表の泊層I期火山岩が類似することから,本コア上部が泊層I期に対比される可能性がある(相澤ほか,2018,地質学会).
 未分化玄武岩の肥沃な同位体組成は,下部地殻の混染では高いMgO,Cr,Ni含有量を説明できない.また浅〜中部コアと未分化玄武岩の高Ba/Nbと,中〜深部コアの高143Nd/144Ndの枯渇組成から,深部コアの火山岩はDMM寄りの同位体組成のマントルの部分融解により生じ,中部コアは同様のマントルで沈み込み流体による汚染の程度がより高かった(高Ba/Nb)可能性がある.その後,浅部コアと地表のI期,II期火山岩は,やや肥沃な組成のリソスフェアマントル(EM IIに似た同位体組成)が部分融解したメルトに由来したと考えられる.
 深部コアの1482.00 mと1335.87 mに赤色の火山礫,中部コアの999.00 mに基質が赤色の火山礫凝灰岩が産出し,これらの産状は陸域環境での火山活動を示唆する.浅部コアでは定置環境を判別できる証拠は見られないが,地表のI期火山岩は層状構造を示す堆積層中に赤色の火山円礫や枕状溶岩がみられ,II期火山岩は枕状溶岩やハイアロクラスタイトを中心とすることから,後期漸新世〜中期中新世にかけてのリフティングにともなって,火山活動の定置環境が変化していったと考えられる.リソスフェアのリフティングがアセノスフェアの貫入により引き起こされているとすれば,マグマが枯渇的な組成から肥沃な組成に移行する地球化学的特徴は,高温のアセノスフェア湧昇流により部分融解深度が変化していることを示唆している可能性がある.