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[SCG59-05] 南海トラフ地震における長周期地震動の即時予測: Green関数を併用したデータ同化手法の有効性
キーワード:長周期地震動、データ同化、Green関数
本研究では、強震観測データと地震波伝播シミュレーションの同化に基づく長周期地震動の即時予測の実現に向け、データ同化手法の高速化に向けた検討を行った。
これまでFurumura et al. (2019)は、K-NETとKiK-net強震観測と3次元差分法による地震波伝播シミュレーションのデータ同化に基づき、2007年新潟県中越沖地震と2011年東北地方太平洋地震における、都心の長周期地震動の即時予測実験を行った。データ同化には、震度の即時予測(Hoshiba and Aoki, 2015)や津波の即時予測(Maeda et al., 2015; Gusman et al., 2016)などで広く用いられている最適内挿法が用いられ、長周期地震動の計算は3次元地下構造モデルを用いた差分法計算により行われている。近年の高速計算機により、日本列島規模の長周期地震動のシミュレーションは、地震波(表面波の基本モード)の伝播速度の数倍以上の速度で行うことは十分可能になった。しかし、長周期地震動の予測から揺れが実際に始まるまでの十分な時間的猶予を確保するためには、コストの高い地震波伝播計算を、より高速に行うための研究開発が必要である。
そこで、本研究は従来のデータ同化・予測に表面波伝播のGreen関数を活用して高速化する手法の有効性を検討した。この手法はWang et al. (2017)でGreen’s Function-Based Tsunami Data Assimilation (GFTDA)として、沖合津波計を用いた津波の高速データ同化・予測手法として提案されている。GFTDAでは、予めデータ同化地点と最終予測地点の間の津波伝播のGreen関数を計算しておき、これをデータ同化地点での観測データとシミュレーション結果との残差に畳み込み積分することで、予測地点の波形を計算する。差分法によって残差を時間発展させていく計算過程を予め計算されたGreen関数で代用するため、最終予測地点の津波波形を瞬時に求めることができる。通常のデータ同化に基づく予測手順と数学的に等価であることはWang et al. (2017)により証明されている。
本研究では、まずこの手法の長周期地震動への適用性を確かめるために、2004年紀伊半島南東沖地震(M7.4)のK-NET, KiK-net強震観測データを用いたデータ同化の数値実験を行い、K-NET新宿地点(TKY007)の長周期地震動の予測を行った。同化・予測計算はJ-SHIS地下構造モデルに対して行った。Green関数の計算を効率的に進めるために、相反定理を用いた震源と観測点を入れ替えた計算を行った。実験より、従来のデータ同化手法による予測とGreen関数を併用した本手法による予測が同一となることを確認した。本手法の活用により、震源域近傍の和歌山県〜三重県の観測データの同化後、直ちに遠地の最終予測地点の長周期地震動が得られることから、猶予時間を大幅に拡大することができる。さらに、熊野灘沖のDONET観測網を利用することで、より即時予測の精度の向上と猶予時間の確保が期待できることも確認した。
続いて、Green関数を併用した手法を用いた南海トラフ地震の長周期地震動の即時予測実験を行った。最終予測地点はKiK-net此花(OSKH02)、K-NET津島(AIC003)、新宿(TKY007)の3点である。震源モデルに内閣府(2016)の1944年東南海地震と1946年南海地震、そして想定最大級(M9)のものを用いた。それぞれの地震の長周期地震動は3次元差分法計算により求め、これを想定観測データとみなして実験に用いた。本実験ではK-NET, KiK-netに加え、DONET、気象庁海底ケーブル地震計、及び高知県沖〜日向灘に展開が計画されている海底津波地震観測網N-netの予想地点での想定観測データも用いた。最終予測地点の長周期地震動の強さは、水平動の速度応答スペクトルのGMRotD50 (水平2成分の波形記録を0~90°回転させたときのそれぞれの速度応答スペクトルの幾何平均のメディアンの値; Boore et al., 2006)により評価した。また、長周期地震動の継続時間の影響を評価するために、地動の累積変動量も計算した。これらの長周期地震動の予測精度は同化の経過とともに一様に高まる。例えば昭和南海地震の震源断層モデルと破壊が東側(熊野灘沖)から進行する地震シナリオでは、地震発生から70秒後の新宿地点の速度応答スペクトル(固有周期10秒)と累積変動量の予測は、大きな揺れが始まる約80秒前に実際の7割のレベルまで達成することを確認した。一方、破壊が西(足摺岬沖)から始まるシナリオでは、最終予測地点が遠い分、同等の予測精度を得る時点でより長い猶予時間(約120秒)が確保できることがわかった。しかしながら、断層破壊が都心に近づくにつれ、長周期地震動レベルが増大するため、より長時間(100秒間)の同化時間が必要であった。いずれにせよ、精度の高い予測と猶予時間の両方を確保するためには、震源域近傍での強震観測とともに、巨大地震の断層破壊の拡大に合わせてデータ同化を一定時間続け、予測を更新し続けることが必要である。
これまでFurumura et al. (2019)は、K-NETとKiK-net強震観測と3次元差分法による地震波伝播シミュレーションのデータ同化に基づき、2007年新潟県中越沖地震と2011年東北地方太平洋地震における、都心の長周期地震動の即時予測実験を行った。データ同化には、震度の即時予測(Hoshiba and Aoki, 2015)や津波の即時予測(Maeda et al., 2015; Gusman et al., 2016)などで広く用いられている最適内挿法が用いられ、長周期地震動の計算は3次元地下構造モデルを用いた差分法計算により行われている。近年の高速計算機により、日本列島規模の長周期地震動のシミュレーションは、地震波(表面波の基本モード)の伝播速度の数倍以上の速度で行うことは十分可能になった。しかし、長周期地震動の予測から揺れが実際に始まるまでの十分な時間的猶予を確保するためには、コストの高い地震波伝播計算を、より高速に行うための研究開発が必要である。
そこで、本研究は従来のデータ同化・予測に表面波伝播のGreen関数を活用して高速化する手法の有効性を検討した。この手法はWang et al. (2017)でGreen’s Function-Based Tsunami Data Assimilation (GFTDA)として、沖合津波計を用いた津波の高速データ同化・予測手法として提案されている。GFTDAでは、予めデータ同化地点と最終予測地点の間の津波伝播のGreen関数を計算しておき、これをデータ同化地点での観測データとシミュレーション結果との残差に畳み込み積分することで、予測地点の波形を計算する。差分法によって残差を時間発展させていく計算過程を予め計算されたGreen関数で代用するため、最終予測地点の津波波形を瞬時に求めることができる。通常のデータ同化に基づく予測手順と数学的に等価であることはWang et al. (2017)により証明されている。
本研究では、まずこの手法の長周期地震動への適用性を確かめるために、2004年紀伊半島南東沖地震(M7.4)のK-NET, KiK-net強震観測データを用いたデータ同化の数値実験を行い、K-NET新宿地点(TKY007)の長周期地震動の予測を行った。同化・予測計算はJ-SHIS地下構造モデルに対して行った。Green関数の計算を効率的に進めるために、相反定理を用いた震源と観測点を入れ替えた計算を行った。実験より、従来のデータ同化手法による予測とGreen関数を併用した本手法による予測が同一となることを確認した。本手法の活用により、震源域近傍の和歌山県〜三重県の観測データの同化後、直ちに遠地の最終予測地点の長周期地震動が得られることから、猶予時間を大幅に拡大することができる。さらに、熊野灘沖のDONET観測網を利用することで、より即時予測の精度の向上と猶予時間の確保が期待できることも確認した。
続いて、Green関数を併用した手法を用いた南海トラフ地震の長周期地震動の即時予測実験を行った。最終予測地点はKiK-net此花(OSKH02)、K-NET津島(AIC003)、新宿(TKY007)の3点である。震源モデルに内閣府(2016)の1944年東南海地震と1946年南海地震、そして想定最大級(M9)のものを用いた。それぞれの地震の長周期地震動は3次元差分法計算により求め、これを想定観測データとみなして実験に用いた。本実験ではK-NET, KiK-netに加え、DONET、気象庁海底ケーブル地震計、及び高知県沖〜日向灘に展開が計画されている海底津波地震観測網N-netの予想地点での想定観測データも用いた。最終予測地点の長周期地震動の強さは、水平動の速度応答スペクトルのGMRotD50 (水平2成分の波形記録を0~90°回転させたときのそれぞれの速度応答スペクトルの幾何平均のメディアンの値; Boore et al., 2006)により評価した。また、長周期地震動の継続時間の影響を評価するために、地動の累積変動量も計算した。これらの長周期地震動の予測精度は同化の経過とともに一様に高まる。例えば昭和南海地震の震源断層モデルと破壊が東側(熊野灘沖)から進行する地震シナリオでは、地震発生から70秒後の新宿地点の速度応答スペクトル(固有周期10秒)と累積変動量の予測は、大きな揺れが始まる約80秒前に実際の7割のレベルまで達成することを確認した。一方、破壊が西(足摺岬沖)から始まるシナリオでは、最終予測地点が遠い分、同等の予測精度を得る時点でより長い猶予時間(約120秒)が確保できることがわかった。しかしながら、断層破壊が都心に近づくにつれ、長周期地震動レベルが増大するため、より長時間(100秒間)の同化時間が必要であった。いずれにせよ、精度の高い予測と猶予時間の両方を確保するためには、震源域近傍での強震観測とともに、巨大地震の断層破壊の拡大に合わせてデータ同化を一定時間続け、予測を更新し続けることが必要である。