日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)、川元 智司(国土交通省国土地理院)、干場 充之(気象研究所)、座長:近貞 直孝(防災科学技術研究所)、小木曽 仁(気象研究所)

16:45 〜 17:00

[SCG59-12] 海洋への隕石落下による津波の即時予測手法の開発

*近貞 直孝1馬場 俊孝2布施 哲治3 (1.防災科研、2.徳島大学、3.情報通信研究機構)

キーワード:即時予測、津波、隕石衝突

津波は主に海底下で発生した地震によって生じる.一方で,地震に寄らない津波が一定程度の割合で発生していることも明らかで,海底地すべりや海底火山の噴火,陸上の火山の噴火であっても土石流等の海洋への流れ込みによっても津波が生じる.また,隕石の落下自体は稀なものではないが,隕石が一定以上の大きさになるとクレーターを形成したり,海洋に落下すれば少なからず津波が発生する.
隕石津波に対する検討はこれまでにも行われてきたが,衝突と津波の伝播の双方を考慮した数値モデルは未だ開発されておらず,海底に形成されたクレーターに海水が再流入することで生じる津波の検討(藤本・今村,1997)や,隕石が海底には達せず海水面に生じたキャビティの崩壊のみを考慮した検討(Ward and Asphaug, 2000;後藤・他,2013)などがあるものの,キャビティ形成時に生じている流速や津波伝播の分散性,実地形に寄る効果等が考慮されていないという問題もある.したがって,小惑星2018LAのように地球への衝突が事前に分かったとしても,海洋へ落下した場合の津波を定量的に即時予測する手段が現存しない.
そこで本研究では,定性的な仮設を用いずに隕石衝突と津波伝播を数値シミュレーションによって高精度に再現するための数値モデルの構築を行う.衝突の計算にはSALE(Simplified Arbitrary Lagrangian Eularian)を元に惑星科学に特化した仕様に改良されたiSALE(Impact-SALE; Wünnemann et al., 2006),津波伝播計算にはJAGURS(Baba et al., 2017)を用いる.iSALEを用いることで多層のターゲットを定義することが可能となり,海水の動きと海底に対するクレーターの形成を同時に計算することが出来る.iSALEの出力である海底変動(クレーター形成)や海面変動,流速をJAGURSの初期条件として入力することで任意の落下地点に応じて沿岸部にどのような津波が到達するかを予測することを可能にする.この時,世界中の任意の地点で津波浸水計算を実現するため,1秒角(約30m)分解能を持つASTER GDEM Version 2(Fujisada et al., 2012)を用いて沿岸域の陸域の地形を作成する.ASTER GDEMは南緯56度から北緯60度までをカバーしている.一方,海底地形については30秒角(約1km)分解能のGEBCO_2014を用いるが,Seabed 2030プロジェクトによって水深が1,500m以浅の海域については100m分解能の海底地形の作成が計画されているため,取り込むことが可能となるようにする.
まず,iSALEを用いて衝突天体の大きさや速度,形成されたキャビティやクレータの直径や衝突地点の水深に応じて,どのような津波の初期波源が形成されるかを調査する.また,JAGURSの初期波源を改造し,Ward and Asphaug(2000)が提案するキャビティ形状から生じる津波の伝播特性について調査する.最後に,iSALEの出力をJAGURSの入力に対して何をどのように渡すのが最適か設計する.加えて,長沢・三浦(1987)等が提案する地震波形データを用いた火球の軌道決定手法をリアルタイム化することで隕石の落下地点の即時推定も組み合わせることを検討する.
iSALE の 開 発 者 で あ る Gareth Collins, Kai Wünnemann, Boris Ivanov, H. Jay Melosh, Dirk Elbeshausen の各氏に感謝致します.本研究の一部はJSPS科研費 JP18K04674の助成を受けたものです.iSALEの計算及び可視化は国立天文台天文シミュレーションプロジェクトCfCAの計算サーバ及び解析サーバで実施しました.記して感謝致します.