日本地球惑星科学連合2019年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG60] 沈み込み帯へのインプットを探る:海溝海側で生じる過程の影響

2019年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:山野 誠(東京大学地震研究所)、森下 知晃(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、座長:山野 誠(東京大学地震研究所)

14:30 〜 14:45

[SCG60-10] 海洋プレート上の堆積物の沈み込む前の堆積過程と変形過程:北西太平洋とスマトラ沖の例

★招待講演

*川村 喜一郎1 (1.山口大学)

キーワード:インプット堆積物、北西太平洋、スマトラ

沈み込む海洋プレートは,被覆する堆積物を大陸側に押し付ける.それが付加体となることもあるし,それらが崩壊して海底地すべりとなることもある.また,沈み込む過程において断層帯となることもある.このように,沈み込む海洋プレート上の堆積物は,沈み込み帯における大陸側での変形プロセスに重要な役割を果たす.以上のような観点に立つと,沈み込むプレート上の堆積物の沈み込む前と後との堆積学的,鉱物学的,力学的特徴などを比較することが現在求められている研究課題である.本発表では,北西太平洋とスマトラ沖での沈み込む前の堆積物の特徴を詳細に報告する.

堆積学的特徴として,北西太平洋では,底層流の影響が大きく,以下に示すように堆積物や海底地形に現れている.この海域では,南側で,伊豆小笠原海溝,北部では日本海溝や千島海溝があり,それらに太平洋プレートが沈み込んでいる.この海域では,海溝軸に沿った強い南北性の流れが観測されており(Lee et al., 2003など),陸側では北から南,海側では南から北への流れがある(Owens and Warren, 2001).また,太平洋の深海底では,概ね西から東への流れが報告されている(Fujio and Yanagimoto, 2005).

長さ4m未満のピストンコアラーで,18本の堆積物試料が採取されており,主として,珪藻質半遠洋性粘土と火山灰層とからなる.火山灰層は,ガラス屈折率測定に基づいて年代決定を試みている.粘土層には,さまざまな堆積構造が見られ,特に,海溝軸では,浸食面が見られ,海溝軸に沿った底層流による影響が示唆される.このような底層流による影響は,帯磁率異方性データにも現れている.また,海丘周辺の海底地形の非対称の窪地(深さ数十m,幅数km程度)からも底層流による地形改変が示唆される.このように,堆積物と海底地形とから,数千年という地質学的な時間スケールでの太平洋の卓越流向が示唆されており.帯磁率異方性や海丘周辺の窪地は,それを明らかにするための重要な証拠を提示するだろう.

力学的特徴として,沈み込む前の堆積物では,圧密・続成作用が重要なプロセスの内の一つである.堆積物は圧密されるときに,応力に応答して,脱水が進行し,それに伴い微細組織が徐々に変化することが知られる.それらは,浅部でカードハウス構造,中部でブックハウス構造,深部で頁岩様構造になるとされる.それらは粒子回転やスライドによってクリープによって進行するとされており,一般的に異常間隙水圧の解消によって生じる一次圧密の後に生じる二次圧密であるとされている.圧密によって堆積物は,徐々に硬くなるが,その力学特性の変化速度は,堆積速度,地温勾配,間隙水の化学組成,粒子組成など,さまざまな要因によって変化する.例えば,頁岩様構造は,伊豆小笠原海溝のインプット物質では間隙比約1.0で,スマトラ沖では約0.5で生じる.また,伊豆小笠原海溝やスマトラ沖のインプット物質では,正断層系のさまざまな変形構造が沈み込む前の変形構造として観察される.

このように,インプット物質や周辺の海底地形などの堆積学的特徴を明らかにすることによって,堆積速度の差異や堆積物の層厚の分布域などについて,解釈を与えることができる.また,力学的特徴は,沈み込む前,すなわち付加体の発達している海域では,付加前変形プロセスを表している.以上のような沈み込む前の堆積物の詳細な特徴は,沈み込んだ後の堆積物を比較検討する上で重要な情報となるだろう.