日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] 変動帯ダイナミクス

2019年5月28日(火) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)、座長:芝崎 文一郎佐藤 大祐

12:00 〜 12:15

[SCG61-24] 南海トラフのプレート間カップリング推定に及ぼす粘弾性緩和の影響

*西村 卓也1Fred Pollitz2 (1.京都大学防災研究所、2.米国地質調査所)

キーワード:地殻変動、粘弾性緩和、南海トラフ、粘弾性ブロックモデル

沈み込み帯の地殻変動を理解する上でアセノスフェアの粘弾性緩和を考慮することは重要である.測地データに基づくプレート間カップリングの推定には,弾性ディスロケーションモデルが用いられることが多かったが,近年の研究では(例えば,Li et al., 2015)粘弾性の影響を無視することによる推定結果のバイアスが指摘されている.Pollitz and Evans (2017)は,米国西部のブロック断層モデルに沈み込み帯の地震サイクルの粘弾性変形補正項を導入し,プレート間カップリングと剛体ブロック運動の同時推定を行った.粘弾性変形補正項は2つの項がある,第一項は過去からのプレート間固着による粘弾性変形に関連して,時間変化しない成分である.第二項は過去に発生した大地震の粘弾性緩和による余効変動であり,大地震からの経過時間に依存する成分である.本研究では,これらの補正項について南海トラフの巨大地震サイクルにおける時間変化を検討した.

粘弾性変形の計算には,VISCO1D(Pollitz, 1997)を用い,厚さ35kmの弾性体の下に粘性率1019Pa sの半無限マックスウェル粘弾性体からなる二層構造を仮定した.1944年東南海地震と1946年南海地震を合わせた南海トラフ地震の震源断層モデルとしてSagiya and Thatcher (1999)を用いた.地震の再来間隔は117年とし,地震間にすべり欠損速度は一定で,蓄積したすべり欠損の全てが南海トラフ地震によって完全に解放されると仮定した.図A-Cに,2007年時点での粘弾性変形の補正項(第一項,第二項,及びその和)を示す.第一項はすべり欠損による弾性応答と粘弾性応答の差に対応するが,太平洋沿岸で2cm/年,日本海沿岸で数mm/年に達する.第二項の変形速度は,第一項とは概ね逆向きとなり,最後の大地震からの経過時間によって減衰していく.第二項の大きさは概ね地震の30年後に第一項と同じとなるため,粘弾性変形補正項全体としては,30年後に一番小さくなる.地震後61年(2007年)でも第一項と第二項の大きさはさほど変わらないので,補正項全体で2mm/年を超えるのは,室戸岬周辺など太平洋沿岸の一部のみとなる.海溝型地震サイクルの最終盤であっても,第二項の大きさは数mm/年程度であるので,粘弾性補正の精度を高めるには第二項の影響を無視することはできない.

発表では,陸上GNSSと海底GNSS-Aの速度場に基づく西南日本のブロック断層モデル(Nishimura et al., 2018)に粘弾性補正を適用した結果についても報告する.