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[SCG61-26] 数千年スケールの地殻変動の空間的差異から見た三陸海岸における地殻変動区区分
キーワード:三陸海岸、地震サイクル、数千年スケール、地殻変動区
東北地方太平洋岸に位置する三陸海岸では,2011年に発生した東北地方太平洋沖地震前の数十~百年間の沈降傾向(Kato, 1983),2011年の地震時の最大1 m強の沈降(Ozawa et al., 2011),および現在までで最大数10 cmにおよぶ地震後の隆起(国土地理院,2017)が観測されている。一方,当該海岸では,海岸沿いに分布する平坦面を海成段丘と解釈することで,105年スケールの隆起傾向が示唆されてきた(小池・町田,2001)。
この対象期間によって異なる地殻変動の向きを説明するモデルが,地震サイクルと関連付けて提案されている(池田ほか,2012;Nishimura, 2014など)。これらのモデルは,三陸海岸が単一の地殻変動区から構成され,1つの地震サイクルで隆起量の累積が沈降量の累積を上回るように示される。しかし,隆起傾向の根拠となる海成段丘のうち,分布が明瞭かつ,編年データが得られているのは三陸海岸の中でも久慈以北だけである(宮崎・石村,2018)。また,宮古以南では,海成段丘と解釈された平坦面の分布は断片的であり,確実度高く海成段丘を認定することはできない(小池・町田,2001)。
このように,海成段丘の分布の特徴のみから三陸海岸における測地観測よりも長期間の地殻変動を広域的に把握することは難しい。一方,近年では三陸海岸に点在する沖積平野では,表層地質の解析に基づいて103~104年スケールの地殻変動が推定されつつある(丹羽ほか,2014など)。三陸海岸南部に位置する陸前高田平野,気仙沼大川平野,および大沼では,沖積層の解析から推定される潮間帯堆積物(過去の海面高度指標)が地殻変動を含まない理論的な海面高度よりも低いことから,103~104年スケールの沈降傾向が示唆される(丹羽ほか,2014,2015;Ishimura and Miyauchi, 2017)。気仙沼大川平野と大沼の中間に位置する津谷平野では,103~104年スケールの沈降傾向を支持する,相対的海水準上昇に対応した堆積環境変化が報告されている(丹羽ほか,2016)。三陸海岸中部に位置する津軽石平野においても潮間帯堆積物が地殻変動を含まない理論的な海面高度よりも低いこと,および相対的海水準上昇に対応した堆積環境変化が報告され,103~104年スケールの沈降傾向が示唆される(Niwa et al., 2017)。一方,三陸海岸北部の小本平野では,前述の顕著な沈降を示す堆積環境の特徴は認められず,103~104年スケールの沈降傾向は認められない,あるいは顕著ではない(Niwa et al., in press)。
これら103~104年スケールの地殻変動の空間分布に着目すると,津軽石以南では沈降傾向,津軽石よりも北方に位置する小本では津軽石以南に対して相対的な隆起傾向にあることが確認される。この分布傾向は,東北地方太平洋沖地震時の沈降量(Ozawa et al., 2011)および同地震以前の101~102年スケールの沈降速度(Kato, 1983)の分布傾向とも調和する。これらの結果から,三陸海岸の地殻変動様式が津軽石と小本の間で異なることが考えられ,地震サイクルの議論の際に単一と見なされてきた三陸海岸の地殻変動区を複数にセグメント区分する必要性が示唆される。
池田ほか(2012) 地質学雑誌,118,294-312.Ishimura and Miyauchi (2017) Mar. Geol., 38, 126-139. Kato (1983) Tectonophysics, 97, 183-200. 小池・町田(2001) 東京大学出版会, 122p.国土地理院(2017)地震予知連絡会会報,96,75-93.宮崎・石村(2018) 地学雑誌,127,735-757.Nishimura (2014) J. Disaster Res., 9, 294-302. 丹羽ほか(2014)第四紀研究,53,311–312. 丹羽ほか(2015) 地学雑誌.124, 554-560.丹羽ほか(2016)地学雑誌,125,395-407.Niwa et al. (2017) Quat. Int., 456, 1-16. Niwa et al. (in press) Quat. Int.. Ozawa et al. (2011) Nature, 475, 373-377.
この対象期間によって異なる地殻変動の向きを説明するモデルが,地震サイクルと関連付けて提案されている(池田ほか,2012;Nishimura, 2014など)。これらのモデルは,三陸海岸が単一の地殻変動区から構成され,1つの地震サイクルで隆起量の累積が沈降量の累積を上回るように示される。しかし,隆起傾向の根拠となる海成段丘のうち,分布が明瞭かつ,編年データが得られているのは三陸海岸の中でも久慈以北だけである(宮崎・石村,2018)。また,宮古以南では,海成段丘と解釈された平坦面の分布は断片的であり,確実度高く海成段丘を認定することはできない(小池・町田,2001)。
このように,海成段丘の分布の特徴のみから三陸海岸における測地観測よりも長期間の地殻変動を広域的に把握することは難しい。一方,近年では三陸海岸に点在する沖積平野では,表層地質の解析に基づいて103~104年スケールの地殻変動が推定されつつある(丹羽ほか,2014など)。三陸海岸南部に位置する陸前高田平野,気仙沼大川平野,および大沼では,沖積層の解析から推定される潮間帯堆積物(過去の海面高度指標)が地殻変動を含まない理論的な海面高度よりも低いことから,103~104年スケールの沈降傾向が示唆される(丹羽ほか,2014,2015;Ishimura and Miyauchi, 2017)。気仙沼大川平野と大沼の中間に位置する津谷平野では,103~104年スケールの沈降傾向を支持する,相対的海水準上昇に対応した堆積環境変化が報告されている(丹羽ほか,2016)。三陸海岸中部に位置する津軽石平野においても潮間帯堆積物が地殻変動を含まない理論的な海面高度よりも低いこと,および相対的海水準上昇に対応した堆積環境変化が報告され,103~104年スケールの沈降傾向が示唆される(Niwa et al., 2017)。一方,三陸海岸北部の小本平野では,前述の顕著な沈降を示す堆積環境の特徴は認められず,103~104年スケールの沈降傾向は認められない,あるいは顕著ではない(Niwa et al., in press)。
これら103~104年スケールの地殻変動の空間分布に着目すると,津軽石以南では沈降傾向,津軽石よりも北方に位置する小本では津軽石以南に対して相対的な隆起傾向にあることが確認される。この分布傾向は,東北地方太平洋沖地震時の沈降量(Ozawa et al., 2011)および同地震以前の101~102年スケールの沈降速度(Kato, 1983)の分布傾向とも調和する。これらの結果から,三陸海岸の地殻変動様式が津軽石と小本の間で異なることが考えられ,地震サイクルの議論の際に単一と見なされてきた三陸海岸の地殻変動区を複数にセグメント区分する必要性が示唆される。
池田ほか(2012) 地質学雑誌,118,294-312.Ishimura and Miyauchi (2017) Mar. Geol., 38, 126-139. Kato (1983) Tectonophysics, 97, 183-200. 小池・町田(2001) 東京大学出版会, 122p.国土地理院(2017)地震予知連絡会会報,96,75-93.宮崎・石村(2018) 地学雑誌,127,735-757.Nishimura (2014) J. Disaster Res., 9, 294-302. 丹羽ほか(2014)第四紀研究,53,311–312. 丹羽ほか(2015) 地学雑誌.124, 554-560.丹羽ほか(2016)地学雑誌,125,395-407.Niwa et al. (2017) Quat. Int., 456, 1-16. Niwa et al. (in press) Quat. Int.. Ozawa et al. (2011) Nature, 475, 373-377.