日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] 変動帯ダイナミクス

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)

[SCG61-P12] 熊本県南部御立岬周辺に見られる脆性剪断帯と地質構造から見た断層活動史

*小柏 景司1小林 健太1 (1.新潟大学)

キーワード:日奈久断層帯

【はじめに】

日奈久断層帯は九州西部に位置し,おおよそ北東―南西方向に81km延びる活断層帯である.日奈久断層帯は東側隆起の上下成分を伴う右横ずれ断層とされる[URL].日奈久断層帯の破砕帯は肥後変成岩類分布域の娑婆神峠と下部白亜系分布域の御立岬付近の2か所で報告されている(松本・勘米良,1964).娑婆神峠の破砕帯の中軸部は右横ずれ,外縁部では左横ずれを示す(小林・小柏,2016).また,日奈久断層帯に平行な地質断層が見かけ左横ずれ断層である(斎藤ほか,2005).これらのことは日奈久断層帯が過去に現在とは異なる運動像で活動していた可能性を示唆する.

破砕帯の解析と破砕帯周辺の地表踏査を行うことは,断層帯の活動史を解明するために重要である.また,九州は西南日本弧と琉球弧の会合部にあたる重要な地域であるため,日奈久断層帯の活動史を解明することは,島弧会合部のテクトニクスの理解に繋がる.本研究では,熊本県南部御立岬付近に見られる脆性剪断帯と地質構造から日奈久断層帯の活動史を解明することを目的として,地表踏査,断層岩の組織観察,XRD分析,小断層解析などを行う.



【地表踏査】

御立岬周辺の地表踏査の結果,下部白亜系日奈久層中で破砕帯を構成する小断層を観察し,断層の走向と運動像,切断関係から4系統に大別した.北北東―南南西走向の左横ずれ断層をF1,北北東―南南西走向の右横ずれ断層をF2,北北西―南南東走向の左横ずれ断層をF3,東西走向の右横ずれ断層をF4とした.F2はカタクレーサイトからなる脆性剪断帯中に見られる小断層群である.F1は脆性剪断帯の外側で見られ,一部は幅5cmの面状カタクレーサイト帯を形成する.F3とF4は互いに切断し合う小断層群である.F3は後述の岩脈群を変形させる.F4は脆性剪断帯を切断する.

断層以外では,脆性剪断帯の南東側に東北東―西南西方向のヒンジをもつ褶曲群を認定した.また,脆性剪断帯の東側に東北東―西北西走向が卓越する安山岩質岩脈群が観察された.F3よる岩脈の切断・屈曲,F3沿いに岩脈が注入する産状を確認した.この岩脈群は天草地方の新第三紀の貫入岩類と関係があるとされる(松本・勘米良,1964).



【多重逆解法(山路,1999)による小断層解析】

F1から北北西―南南東方向の圧縮応力場,F2から東北東―西南西方向の圧縮応力場,F3とF4から北西―南東方向の圧縮応力場を検出した.



【変動ステージ区分】

御立岬周辺で観察された断層・火成岩脈・褶曲の形成時期を,切断関係より求めた応力場にから,3つの変動ステージに区分し,古い方からD1,D2,D3とした.

D1では,北北西―南南東方向の圧縮応力場で,北北東―南南西走向の左横ずれ断層(F1)が活動した.圧縮軸方向を考慮すると,東北東―西南西方向の褶曲軸をもつ褶曲群はD1で形成したと考えられる.

D2では,東北東―西南西方向の圧縮応力場で,北北東―南南西走向の右横ずれ断層(F2)が活動し,幅の広い脆性剪断帯を形成した.

D3では,北西―南東方向の圧縮応力場で,北北西―南南東走向の左横ずれ断層(F3)と東西走向の右横ずれ断層(F4)が活動した.

岩脈の屈曲やF3沿いに注入する産状は岩脈が未固結時にF3による変形を受けたことを示していると考えた.上記のような産状を考慮して,岩脈群はD2末期からD3初期までの間に貫入したと考えた.



【引用文献】

斎藤ほか,2005,八代及び野母崎の一部(20万分の1地質図幅),地質調査総合センター.松本・勘米良,1964,日奈久地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所.山路敦,1999,多重逆解法:複数の応力を検知する小断層解析の新手法,構造地質,no.43,79-88.

[URL]地震調査研究推進本部事務局,布田川・日奈久起震断層,

https://www.jishin.go.jp/main/oshirase/2016kumamoto.html