日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG61] 変動帯ダイナミクス

2019年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、岩森 光(海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)

[SCG61-P23] 地震性海岸段丘の保存性の力学的考察:非対称な地震間と地震時の変形

*鈴木 杏平1小森 純希1安藤 亮輔1 (1.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:古地震、力学モデル、海岸段丘

房総半島の南部では沼Ⅰ-Ⅳ面と呼ばれる顕著な4つの海岸段丘が知られており、段丘の比高や形成年代から、地震時の隆起量や滑り量、地震発生時期などが推定されてきた(Matsuda et al., 1978 ; 中田ほか, 1980 ; 行谷ほか, 2011 ; Sato et al., 2016 など)。しかし、 先行研究において海岸段丘の形成と古地震イベントの関係を疑問視するものもある(Matsu’ura and Sato 1989、 Noda et al., 2018)。Matsu’ura and Sato (1989) は、長期的な地表面隆起を屈曲したプレート境界の定常的な滑り蓄積の効果として力学的に説明した。このモデルは地震域において地震間ではバックスリップ、地震時ではフォワードスリップによって変動を表現し、 また、 プレート境界面全体に沿った時間に定常的なフォワードスリップを与えている。このモデルから、彼らは地震時の変動パターンは地震間の変動パターンによって相殺され、 地表の隆起蓄積はプレートの定常沈み込みによる効果にのみ寄与するとした。しかし、これは沈み込み帯を水平成層構造の中に一枚の面としてスラブを表現し、さらにプレート境界面における境界条件として一様な変位量を与え、 地震間のバックスリップと地震時のフォワードスリップの量が等しいと仮定した単純化されたモデルによる帰結である。本研究の目的はより現実的なスラブの形状、 プレートの運動、 そして地震時の断層運動を考慮することによって、 地震時隆起量が地震時滑り量を記録し、地震サイクルにわたり残留、累積していかないか、 さらに、それが海岸段丘形成過程に影響するかについて、一般的な力学モデルの中で検証することである。
計算手順として、まず、海洋プレートの端に一定の変位を与え、プレート境界上に応力・歪を蓄積させる。次に、蓄積されたせん断応力を、断層上で働く動摩擦強度はどこでも一定であるとの仮定の下に、地震時に断層の滑りによって全て解放させ、そして地表面の鉛直変位パターンとプレート境界面の滑り量を求める。 線形弾性論において重ね合わせの原理が成り立つことをふまえ、本研究では、地震間と地震時の両過程の境界条件を分けてそれぞれの鉛直変位の計算を行い、その和を取ることで残留量を計算した。また、実際のプレート境界面における、海山や地溝のような表面の凹凸が鉛直変位の空間パターンに与える影響も検証するために、プレート境界面に局所的に凹凸が入れられた場合についても2パターンの計算を行った。
計算の結果として、非固着域での地震間の滑り量は固着域の近傍で0に収束し、地震時滑り量は一様ではなく、プレート境界面全体で滑っていることがわかった。このことは、プレート内に永年変形を引き起こす、固着域で生じるプレート境界面の相対運動、すなわち累積滑り、は、Matsu’ura and Sato (1989)が仮定したような、一定速度で生じるのではなく、地震サイクルにおいて間欠的であることを示唆している。次に、鉛直変位残留量から、地震時と地震間でのそれらの空間パターンが異なっていることがわかった。さらに、プレート境界面に局所的な凹凸を入れると、地震時において各モデルの滑り量分布は異なり、それに対応して隆起の空間パターンが異なっていることが分かった。固着域は地震間に滑ることはないので、地震間の変形は、どの形状モデルにおいても同一であることに注意されたい。これらのことは、従来モデルの枠組みに置き換えて考えると、地震間のバックスリップと地震時のフォワードスリップが完全に打ち消し合っていない状況を端的に示している。このことは、段丘比高が滑り量を記録し、プレート境界面の形状が実際の海岸段丘形成に影響を与えることを示唆している。本研究の結果は、プレート境界面上の滑りが間欠的であり、地震時の滑りに海岸段丘形成が依存することを示している。つまり、本研究の結果は、海岸段丘の比高から古地震像を推定することが、二次的な地形改変による効果は別途検討する必要があるものの、地殻変動の観点からは、原理的には可能であることを示している。