日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG62] 固体地球科学における機械学習の可能性

2019年5月26日(日) 09:00 〜 10:30 304 (3F)

コンビーナ:内出 崇彦(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、小田 啓邦(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:内出 崇彦(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、小田 啓邦

09:35 〜 09:50

[SCG62-03] AIによるアップサンプリングを活用した広帯域地震動波形合成の試み(2)

*前田 宜浩1岩城 麻子1藤原 広行1松崎 和敏2友澤 弘充2森 悠史2土屋 美恵2宮田 尚史2 (1.防災科学技術研究所、2.みずほ情報総研株式会社)

キーワード:広帯域地震動波形合成、カップリング学習、人工知能

地震ハザード評価の高度化には、広帯域地震動の予測精度の向上が必要である。広帯域地震動波形の予測では、三次元差分法などの理論的手法で計算した長周期成分と、統計的グリーン関数法などの経験的、半経験的手法に基づいて計算した短周期成分を足し合わせることで広帯域地震動を求めるハイブリッド合成法がよく用いられる。長周期帯域と短周期帯域での計算手法はそれぞれ、地下構造の三次元性の影響やランダム不均質性の影響を考慮した手法となっているものの、互いに異なる速度構造モデルを用いた独立した計算となっているため、長周期と短周期で地震波の到達時間やスペクトルの振幅レベルがずれるといった不具合が生じることが知られている。

こうした課題に対して、観測記録から抽出した長周期地震動波形と短周期地震動波形の包絡形状の関係性を、理論的手法による長周期地震動波形に適用することで広帯域地震動波形を合成する手法が提案されている(岩城・藤原、2013)。我々は、この長周期成分から短周期成分を合成するという予測手法を人工知能におけるアップサンプリングの問題として捉え、機械学習手法のひとつであるカップリング学習(永田・他、2016)を用いた検討を行ってきた(前田・他、2018)。具体的には、防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET、KiK-net)でこれまでに蓄積された膨大な強震観測記録を利用し、フィルタ処理により作成した長周期地震動と広帯域地震動の波形の関係性を人工知能に適用し、長周期地震動を入力として広帯域地震動を予測する人工知能について検討してきた。

予測性能は観測と予測による広帯域地震動の類似度によって評価する。これまでの検討では広帯域波形の時系列データに基づいて類似度を評価していたが、本検討では0.5-1.0Hz, 1-2Hz, 2-4Hz, 4-8Hz, 8-16Hzでの狭帯域波形の包絡形状、及びフーリエ振幅スペクトルに基づいた類似度評価式を作成した。人工知能の学習と検証に用いるデータセットを、①単独の観測点の記録、②地盤条件の類似した複数観測点の記録、③マグニチュードが同程度の地震による複数観測点の記録、④震源域が近接する地震による複数観測点の記録、⑤①~④の全記録として検討を行ったところ、①の場合に予測性能が若干高い傾向が見られた。また、①の場合には、スペクトルのピーク周波数の再現性が見られた。定性的には、観測点固有の地震動特性を考慮可能な①の場合の予測性能が有意に高くなることが予想され、本検討の結果は類似度評価式に改良の余地があることを示唆している。

謝辞:本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました。また、本研究は、理化学研究所との共同研究の一環として実施しました。