日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM18] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2019年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:清水 久芳(東京大学地震研究所)、佐藤 雅彦(東京大学地球惑星科学専攻学専攻)、座長:佐藤 雅彦(東京大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、清水 久芳(東京大学地震研究所)

13:45 〜 14:05

[SEM18-13] 固有磁場が地球型惑星からの大気散逸に与える影響

★招待講演

*関 華奈子1堺 正太朗1乾 彰悟1坂田 遼弥1寺田 直樹2品川 裕之3David Brain4 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.東北大学大学院理学研究科、3.情報通信研究機構、4.コロラド大学ボルダー校 LASP)

キーワード:固有磁場、火星、大気散逸、気候変動、イオン流出、多成分磁気流体シミュレーション

火星は、過去にはグローバルな固有磁場を持っていたと推定される惑星であり、また現在は、主に南半球に地殻起源の磁場が残留している。火星が固有磁場を失った時期は、約41〜40億年前だと推測されている。一方で、40億年前の火星は表層に液体の水を保持し、現在より温暖湿潤な気候であったと推定されている。それが、40億年前から35億年前くらいの比較的早い時期に、現在の火星のように寒冷乾燥した気候に変化したと考えられている。このような気候変動を引き起こすには、1気圧分程度のCO2大気が地下に貯蔵もしくは宇宙空間に流出して表層環境から取り除かれる必要があるが、火星で大量の炭酸塩は見つかっておらず、大量のCO2大気が宇宙空間に散逸した可能性が高いと考えられている。一方で、実際に多量の大気を散逸させられるメカニズムはわかっておらず、火星宇宙気候研究の重要課題として、CO2大気を宇宙空間に逃がすことができる機構の解明が挙げられる。

現在の火星はグローバルな固有磁場を持たず、太陽風と大気が直接相互作用しているが、上述のように過去の火星は固有磁場を保有していたと考えられており、磁場を失った時期と気候変動が起こった時期が近いこともあり、火星からの大気散逸を理解するためには、固有磁場の影響を考慮することが重要である。これまでに、NASAの火星探査機MAVEN等によって火星大気散逸現象を含む火星圏環境について多くの基本的描像が得られつつある。その中で、低エネルギーイオン流出は、重イオンを含む大量の電離大気を散逸させられるメカニズムとして注目されている。本講演では、MAVENの観測データの統計解析に基づいた火星からの低エネルギーイオン流出機構に太陽風と地殻残留磁場がおよぼす影響の研究、および、太陽風-火星相互作用系のグローバル多成分磁気流体(MHD)シミュレーションに基づく弱い惑星固有磁場がイオン散逸におよぼす影響の研究を中心に、最近の火星における固有磁場が大気散逸に与えた影響についての研究の進展について紹介する。また、これらの研究結果も踏まえて、比較惑星学的視点から固有磁場が地球型惑星からの大気散逸に与える影響についても議論したい。