日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 宇宙測地学の工学利用

2019年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 105 (1F)

コンビーナ:島田 誠一(東京大学大学院新領域創成科学研究科 株式会社日豊)、六川 修一(東京大学)、宮原 伐折羅(国土交通省国土地理院)、辻井 利昭(公立大学法人大阪府立大学 大学院工学研究科 航空宇宙海洋系専攻)、座長:愛知 正温酒井 和紀

10:15 〜 10:30

[SGD02-06] GNSS衛星航法が利用拡大する航空分野における新たな脅威と対策

★招待講演

*藤原 健1辻井 利昭2 (1.宇宙航空研究開発機構、2.大阪府立大学)

キーワード:航空、GNSS、衛星航法

宇宙測地計測を利用した工学分野のひとつである航空分野において、GNSSを利用した衛星航法の重要性は飛躍的に増大しつつある。アジア太平洋地域を中心に世界的に増加が予想される将来の航空交通需要に対し、我が国では将来の航空交通システムに関する長期ビジョンCARATS(Collaborative Actions for Renovation of Air Traffic Systems:航空交通システムの変革に向けた協調的行動)を国土交通省航空局が作成し、JAXAもCARATSと連携した次世代運航システムの研究開発プロジェクトDREAMS(Distributed and Revolutionary Efficient Air-safety Management System:分散型高効率航空交通管理システム)、およびそのフォローアップ研究事業を実施してきた。

CARATSは、変革の方向性のひとつとして「全飛行フェーズでの衛星航法の実現」を掲げ、今後ますますGNSS(Global Navigation Satellite Systems:全球測位衛星システム)を利用した衛星航法の利用を推進している。なかでも衛星航法による精密進入やRNP(Required Navigation Performance:航法性能要件)運航の実現は柔軟な運航を可能とし、将来の増加した航空交通量のもとでの安全かつ高密度な運航につながると期待されている。

一方、これら衛星航法による柔軟な運航の実現には、GNSSの信号の伝搬経路にある電離圏の異常への適切な対処が必要とされている。欧米では太陽フレア等を原因とする磁気嵐(中低緯度において全世界的に地磁気が減少する現象)に起因する大きな電離圏異常がおもな脅威とされ、多くの評価がなされてきた。それに対し日本などの磁気緯度の低い地域では、より高頻度な赤道プラズマバブル(赤道域電離圏においてプラズマ密度が局所的に減少する現象)の影響が懸念されている。

このような一時的な衛星航法の脅威への対抗策として、外部からの信号等に頼らずに航法を実現できるINS(Inertial Navigation System:慣性航法装置)を援用する技術が従来から提案されてきた。この技術を民間航空機の正式な運航で使用できるようにするために、現在、米国RTCA(Radio Technical Commission for Aeronautics:航空無線技術委員会)において技術基準の策定が進められている。

技術基準においては、開発した航法装置が民間航空機に搭載するにあたり必要な機能・性能を有しているか試験・検証する方法を規定するが、多様な条件下での各種性能を評価するためには、実環境における試験だけでは十分とは言えず、多様な条件設定が可能である数値シミュレーションの活用が不可欠である。衛星航法に対する電離圏異常等の影響を評価するためには、それらがGNSSの信号に与える影響を調査し、その結果を数値解析モデルとして数値シミュレーションに組み込む必要がある。

JAXAは、DREAMSプロジェクトにおいて衛星航法の信頼性向上についての研究に取り組み、実際の電離圏異常環境下でGNSSデータを収集し、調査を行ってきた。本講演では、航空分野におけるGNSSの利用拡大の状況を報告するとともに、実際の電離圏異常環境下で収集されたGNSSデータの調査結果と、その結果をもとに構築された数値解析モデル、ならびにそのモデルを組み込んだ数値シミュレーションツールについて紹介する。