[S-GD02] 宇宙測地学の工学利用

[SGD02-P02] 干渉SAR時系列解析技術の防災への利活用について

*中村 貴子¹、六川 修一¹ (1.東京大学)

キーワード：干渉SAR時系列解析、防災、地盤変動解析

本研究は、干渉SAR時系列解析を用いて土砂崩れなどの災害発生前後の地盤変動の抽出とモニタリングの可能性を考察するものである。解析は過去に災害が発生した場所で、その発生前後の時期に取得された衛星画像データを用いて行った。こうして得られた成果は、近年多発する地震や火山噴火、局所的な豪雨による土砂災害の危険地域において災害の発生時期をある程度予測する材料になりうると思われる。実際に土砂災害の被災地域をいくつか選定し、モデル地域として干渉SAR解析技術を用いた地盤変動解析を行った。
選定地域は宮崎県の耳川上流域、広島県南西部、九州北西部などで、それぞれ過去に土砂災害に見舞われた地域や地すべり危険区域である。使用データはALOS/PALSARのアーカイブデータの中から、衛星稼働期間中に取得された偏波：HH、入射角：34.3°の画像データを用いた。干渉SAR時系列解析の適用においては、複数の軌道の干渉画像を統合的に解析する平滑化拘束付きインバージョン手法を用いて微小な変動の検出を可能にしている。また、ディセンディングとアセンディングの２軌道を用いた2.5次元解析も行った。解析の結果、耳川上流域では、崩壊跡の他、未崩壊の地点でも強い変位が見られ、これから崩壊が起こる可能性の高い地点が抽出されている可能性が高いと思われる。そのような地域は他の解析例でも見られた。広島県南西部の被災地周辺の2.5次元解析結果からは東向成分の変動量図から実際の土砂災害箇所がほぼピンポイントで抽出された。本地域は北東－南西方向の断層が卓越しており連続した山の斜面が同様の方向に延びており、それらの特徴的な地形が地盤変動の方向に影響しているものと思われる。九州北西部地域では、メディアンフィルタ＋ヒストグラム抽出処理＋ラプラシアンフィルタ処理を併用することで、地すべり箇所の他に地すべりの初期変動が起こっていると思われる箇所がいくつか検出された。
以上の結果、災害時に起こる比較的大きな変動と異なり、災害直前の微細な地盤変動を抽出するためには、干渉SAR時系列解析に様々な工夫が必要であることが分かった。また、干渉SAR解析を用いたモニタリングを実運用するためには、対象地域の地質や地形の特徴を十分考慮し、平時から対象地域に関するベースとなる情報を蓄積整備しておくことが重要であると思われる。有事の際には最新の観測データを直ちに入手し、アーカイブデータと追加解析を行うことにより、最新の変動状況が入手可能となる。