日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL27] 地球年代学・同位体地球科学

2019年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:田上 高広佐野 有司

09:45 〜 10:00

[SGL27-03] Multi-OSL熱年代法による土岐花崗岩体の10万年スケールの熱履歴推定

*小形 学1King Georgina2Herman Frédéric2末岡 茂1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構東濃地科学センター、2.ローザンヌ大学)

キーワード:ルミネッセンス、熱年代、長石

高レベル放射性廃棄物の地層処分においては、隆起・侵食による地下施設と地表との離間距離の変化や地下水流動の変化について評価することが求められる。そのため、様々な地質環境や時間スケールにおいて、隆起・侵食の速度を定量的に求める手法の開発・整備が必要である。侵食速度を定量的に求める手法としては、数メートルの侵食量を対象にする宇宙線生成核種(10Be、26Al)を利用する方法や、数百万年以上の長期における数十から数百度の温度領域(侵食量換算でkmオーダー)を対象とするフィッション・トラック法・(U-Th)/He法といった熱年代法が挙げられる。一方、地層処分においては、侵食量数百メートル(温度換算で数十度以下)かつ、放射性廃棄物が天然ウラン鉱石の放射能レベルまで減衰する数十万年以内における侵食史の評価が特に重要となる。
Multi-OSL (optically stimulated luminescence)熱年代法は、過去10-20万年の低温領域(<75℃)の熱履歴を推定できる方法として近年提唱されている。この手法は、鉱物中の電子のトラップ・熱的脱トラップの比率が周囲の温度に影響することを利用し、熱履歴を推定する方法である。対象鉱物となる長石は地殻浅部の多くの岩石に普遍的に含まれるため、岩種による制約も少なく、10万年スケールの侵食史の復元に有効だと期待できる。OSL熱年代法の適用は、ルミネッセンス信号が数十万年で飽和するため、露頭試料においては侵食速度の速い地域に制限される。そのため、先行研究のほとんどは、東ヒマラヤや南アルプス(ニュージーランド) 、飛騨山脈といった侵食速度が数mm/yearを超える地域で行われている。しかし、大深度ボーリングコアを用い、ルミネッセンス信号が飽和していない地下深部の試料を利用することで、侵食速度の遅い地域にも適用できる可能性がある。
本研究では、ボーリングコアを用い、比較的侵食速度が遅い地域に対してMulti-OSL熱年代法を適用し、利用可能性を評価した。試料には、美濃高原(岐阜県瑞浪市)で掘削されたボーリングコアを用いた。アパタイトフィッション・トラック法で推定された約40 Ma以降の侵食速度(<0.16 mm/year)や、河成段丘から求められたMIS6からMIS2の隆起速度(0.11~0.16 mm/year)から、この地域の侵食速度は0.1 mm/year程度またはそれ以下と予想される。コアは主に山陽帯東部の土岐花崗岩帯で構成される。総掘削長が1,300 mabh (meter along borehole)で、159、449、751 mabh地点のコアを測定した。
全ての試料で、約10万年前から現在までほぼ温度が変化しないという結果が得られた。この結果は、この地域の侵食速度が遅いという予想と一致する。本研究により、大深度ボーリングコアを用いることで、侵食速度が遅い地域にもOSL熱年代が適用できる可能性が示された。Multi-OSL熱年代法は、既存の手法では推定が困難な数十万年までの低温領域の熱履歴を推定できる方法として利用できると考えられる。
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業 (地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。