日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL27] 地球年代学・同位体地球科学

2019年5月30日(木) 10:45 〜 12:15 A10 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:佐野 有司田上 高広

11:45 〜 12:15

[SGL27-09] 放射年代と天文年代ー国際年代層序表における年代数値に関連して

★招待講演

*兼岡 一郎1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:国際年代層序表、年代数値、有効数値、天文年代、放射年代

2018年7月、国際地質科学連合(IUGS)の国際層序委員会(ICS)によって、国際年代層序表(ISC)の最新版(v.2018/07)が公表された。国際年代層序表において各層序境界に付加されている年代数値の取扱いについて注意すべきことを、筆者は2009年度版の国際年代層序表に基づいて以前の地球惑星科学連合大会で指摘した(兼岡,2016)。2018年度版も本質的な点については変わっていないが、その数値の表記法などについては2009年度版とはいくつかの異同があり、全体としての表記法の統一基準が以前より曖昧になっている点がある。ここではいくつかを指摘するとともに、年代数値を付加する際に採用されている天文年代と放射年代を比較・検討する。
 2018年度版の国際年代層序表では、年代数値として天文年代が用いられているのが2009年度版ではCenozoicのうちQuaternary, Neogeneだけであったのが、Paleogeneまで拡張されてCenozoic全体に及んでいる。しかし有効数値としては、Pliocene内のPiacenzianの下限値3.600MaからOligocene内のChattianの下限値27.82Maまでは4桁で表示されているが、それら以外の範囲では3桁の有効数値でしか表示されていない。Quaternaryの年代下限値は2009年度版では2.588Maとされていたが、2018年度版では2.58Maと表示されている。これらの有効数値の桁数の表示の基準が不明確である。
 MesozoicおよびPaleozoicの各境界の年代数値については、放射年代による数値が与えられていて、内挿値によるものを除けば、いずれも測定誤差がつけられている。有効数値としては4桁のものが多いが、実際には3桁から6桁までに及んでいて一般性に欠ける。また2018年度版の国際年代層序表では、2009年度版に比べていくつかの境界の年代数値が変更されているが、その表示の仕方についても統一性がない。
 Cenozoicにおける各境界の年代数値として採用されている天文年代は、海水の酸素同位体比の変動に反映されている長期的な気候変動の主要な原因が、太陽を周回する地球の軌道の長期的な変化(ミランコビッチ周期)で説明できるとして、それに基づいて計算された年代と長期的な酸素同位体比の変動を対比させて求められる。計算された年代数値はいくらでも桁数を取ることが可能なので、放射年代では測定誤差の増大で困難な若い年代範囲に対しても、細かい年代数値を与えられるという利点がある。しかし軌道変化に基づいて計算された年代値の誤差はないと仮定しても、酸素同位体比の変動を計算値から得られる温度の変動と対比する際にはある程度の誤差を伴うはずだが、天文年代にはそれが反映されていない。また海水の酸素同位体比変動がミランコビッチ周期のみで完全に支配されている保証はなく、年代層序における各境界自体も、地球史を通じて酸素同位体比に反映されている保証もない。天文年代を用いて与えられた年代数値は、ミランコビッチ周期を前提とした“モデル年代”である。
 一方、放射年代によって層序境界に与えられる年代数値を求めるためには、それぞれの年代境界に対して用いる放射年代の測定法、試料の種類、試料の採取箇所、測定法に対する年代適用限界などさまざまな要素を、慎重に評価する必要がある。この方法では分析精度に限界があるので、必然的に測定誤差を伴う。また放射壊変を利用するので、その壊変定数の不確定性も年代値の確度を左右するが、天文年代による”モデル年代”とは本質的に異なる。
 国際年代層序表の各境界の年代数値に対しては、利用者における混乱を避けるためにも合理的な桁数の有効数値が与えられることが望ましい。しかし2018年度版の国際年代層序表ではそれが実現されていない。そのため、国際年代層序表に与えられている年代数値はCenozoicとそれ以外では異なった前提に基づいて得られた年代数値で表示されており、測定誤差も考慮して、年代値の有効数値としては3桁程度を目安として使用するのが妥当であろう。