日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL27] 地球年代学・同位体地球科学

2019年5月30日(木) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

[SGL27-P07] 東北日本弧前弧域における熱年代学的研究

*梶田 侑弥1末岡 茂2福田 将眞1長谷部 徳子3田村 明弘4森下 知晃4Kohn Barry5横山 立憲2田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.日本原子力研究開発機構、3.金沢大学環日本海域環境研究センター、4.金沢大学理工学域自然システム学類、5.メルボルン大学地球科学科)

キーワード:熱年代学、東北日本弧、阿武隈、北上

弧―海溝系とは、活動的縁辺にあたるプレートの沈み込み帯において上盤プレートの縁辺にできる弧状の地形的高まりと海溝のことである。弧―海溝系は島弧と陸弧に分類され、背弧海盆や縁海盆の有無により区別される。火山活動や地震等の地殻活動が盛んに生じている島弧は、造山帯・大陸の起源やプレート運動の変遷を解明する鍵として研究がされてきた(鳥海ほか編, 2018)

東北日本弧は海溝側から順に前弧、火山フロント、背弧、背弧海盆といった島弧に特徴的な構成単元が明瞭に見られるため、島弧のテクトニクスを考察するのに適した地域である。それゆえ、構造発達史について様々な研究がなされてきている(e.g. 天野・佐藤, 1989; 佐藤, 1992; Nakajima, 2013)。一方で、島弧のテクトニクスを議論する上で重要となる山地の定量的な隆起・削剥史に関する研究例は数が限られている。

山地の上下変動を定量的に推定する手法の一つとして、熱年代学が知られる。熱年代学とは、放射年代測定による年代値と、年代測定手法と鉱物の組み合わせに固有な閉鎖温度を利用することで、岩石の辿ってきた熱履歴を復元する学問領域である。さらに、様々な仮定を置くことで山地の隆起・削剥史の検討が可能である。世界の大規模な造山帯での研究では成功を収めてきた(Hermam et al., 2013)が、東北日本弧における熱年代学的手法の適用は近年本格化したばかりであり、報告例は少数に留まる(e.g. Sueoka et al., 2017, Fukuda et al., in press)。さらに、これらの先行研究は前弧、奥羽脊梁山地、背弧をそれぞれ1つのユニットとして捉えており、各ユニット内での詳細な熱史・削剥史に関する議論は十分でない。

そこで本研究は、東北日本弧前弧域に焦点を当て、基盤岩である花崗岩類が比較的広く分布する北上山地・阿武隈山地を対象として、それぞれの山地における詳細な熱史・削剥史の推定を目的に熱年代学的検討を行った。本研究では熱年代学的手法としてアパタイトフィッション・トラック(AFT)法、アパタイト(U-Th)/He(AHe)法、ジルコン(Zr)U-Pb法を適用した。AFT年代は北上山地で66.8~39.1 Ma、阿武隈山地で61.0~40.5 Maが得られた。AHe年代は北上山地で51.2~36.1 Ma、阿武隈山地で75.9~60.1 Maが得られた。Zr U-Pb年代は阿武隈山地で110.3~104.3 Maが得られた。また、本研究結果と先行研究のデータから、各山地の年代の傾向および削剥史を議論した。

北上山地において、AFT年代では、東に行くにつれて若くなる傾向が観測されたが、AHe年代では、最も古い西縁部を除けば、他の地点はほぼ同程度の年代が得られ,AFT年代のような傾向は見られなかった。一方、阿武隈山地では、AFT・AHe年代ともに畑川断層帯を境に年代値が東西で異なり、西側が若く、東側が古い年代のグループが見出された。各山地の削剥史を簡単に検討するため、全地点で一律な地温勾配を仮定すると、北上山地では東西で削剥史が異なり、隆起形態が時間変化している可能性を示唆した。また、阿武隈山地では、畑川断層帯の活動時期を制約する可能性のある情報が得られた。

今後の課題としては、①追加分析による各手法における測定精度や確度の向上、②未分析地点での測定や新しい熱年代計(e.g. 宇宙線生成核種法)による分析の実施、③より詳細な熱史の推定のため、AFT法における熱史逆解析の実施、④北上山地・阿武隈山地における地温勾配の考察、隆起モデルやテクトニクスモデルの検討、などが挙げられる。



謝辞:本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30年度地質環境長期安定性評価技術高度化開発」の成果の一部である。また、本研究は平成26-30 年度文部科学省新学術研究領域「異なる時空間スケールにおける日本列島の変形場の解明」(代表:鷺谷 威、課題 番号26109003)によって助成された。