日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL28] 地域地質と構造発達史

2019年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)、座長:大坪 誠(産業技術総合研究所  地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

09:45 〜 10:00

[SGL28-04] 東北日本の上部白亜系前弧海盆堆積物に記録された海水準変動とテクトニクス

*有元 純1高嶋 礼詩2西 弘嗣2折橋 裕二3山中 寿朗4 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学学術資源研究公開センター、3.弘前大学理工学部地球環境防災学科、4.東京海洋大学)

キーワード:後期白亜紀、東北日本、前弧海盆、久慈層群、シーケンス層序、テクトニクス

白亜紀の東アジア大陸縁辺域のテクトニクスの解明は,日本列島の形成やユーラシア大陸との陸上生物相の繋がりを知るために重要である.特に,後期白亜紀の東北日本の地史を理解する鍵となるのが,常磐地域から北海道・サハリンにかけて南北に広がる前弧海盆に形成された,上部白亜系〜古第三系堆積岩類である.陸域に露出する代表的な地層群として,双葉層群,久慈層群,蝦夷層群などが知られるが,中でも浅海〜非海成相の発達する久慈層群および双葉層群は,相対的海水準変動の強い影響下で形成されたと考えられている.相対的海水準変動は,1) 汎世界的な海水準変動,および2) 堆積盆のテクトニックな隆起・沈降の両方に支配される.しかし,久慈層群の既往研究においては,地質年代が詳細に制約されていなかったことから,両者の関係については不明な点が多かった.これに対し,本研究では久慈層群における新たな堆積年代の制約を提示し,東北日本の上部白亜系の広域対比の再解釈に基づいて,後期白亜紀の東アジア大陸縁辺に記録されたテクトニクス,および汎世界的海水準変動との関係を明らかにすることを目的とする.

久慈層群は,岩手県北部の太平洋沿岸部に沿って帯状に分布し,全層厚は約700 mに達する.砂質シルト岩,炭質泥岩,砂岩,礫岩の互層からなり,複数層準に炭層,および珪長質凝灰岩層を挟む.下位の先白亜紀付加体と前期白亜紀花崗岩類を不整合に覆い,上位は古第三系野田層群に平行不整合に覆われる.下位より玉川層(浅海〜非海成),国丹層(海成),沢山層(非海成)に区分され,全体として少なくとも4回の上方細粒化傾向がみられる.これらは先行研究の詳細な堆積相解析と年代層序をもとに,第3オーダーの海水準変動に由来する堆積シーケンス(DS1〜DS5)に位置づけられている(三塚・安藤, 2016).

久慈層群における,炭素同位体比層序と凝灰岩のU−Pb放射年代を根拠とする新たな年代モデルに基づくと,DS1〜DS5は上部白亜系チューロニアン階〜カンパニアン階に対比される.特に久慈層群のDS2〜DS4は,同じ堆積盆西縁部に位置する双葉層群(コニアシアン階〜サントニアン階)の堆積シーケンス(安藤ほか, 1995)と対比される可能性が高いことが,新たな年代モデルから明らかとなった.DS1〜DS4に認められる海水準変動のサイクルは,チューロニアン期中期〜カンパニアン期前期における第2・第3オーダーの全球的海水準変動(Haq, 2014)と調和的である.一方,久慈層群沢山層(カンパニアン階)に相当するDS5は,最大層厚200 mに達する非海成相(網状〜蛇行河川相)を主体とし,カンパニアン期前期に顕著な陸化が起きたことを示している.また,北方に隣接する亜堆積盆で形成された蝦夷層群においても,函淵層(カンパニアン階; 辻野, 2009)において浅海相が顕著に発達する.これらの陸化・浅海化は,同時期の汎世界的な海水準の上昇傾向を反映していないことから,カンパニアン期前期の東北日本前弧堆積盆の広範囲な隆起に起因すると考えられる.このような造構運動の背景には,海洋プレートの運動方向の変化(e.g. Ando, 2003)などの関与が想定されており,本研究結果は後期白亜紀の東アジア大陸縁辺における重要なテクトニックイベントに新たな年代の制約を与える.



参考文献:
安藤寿男ほか, 1995, 地学雑誌104, 284–303.; Ando, H., 2003, Journal of Asian Earth Sciences 21, 921–935.; Haq, B., 2014, Global and Planetary Change113, 44–58.; 三塚俊輔,安藤寿男, 2016, 日本地質学会第123年学術大会講演要旨,205.; 辻野泰之, 2009, 地質学雑誌115, 122–129.