日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP32] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、座長:田口 知樹(京都大学 大学院理学研究科)、吉田 健太(海洋研究開発機構)

11:30 〜 11:45

[SMP32-10] 隠岐片麻岩の高Ti黒雲母の普遍性と部分溶融条件

吉田 宏1、*遠藤 俊祐1藤原 まい1亀井 淳志1 (1.島根大学総合理工学部地球科学科)

キーワード:隠岐片麻岩、黒雲母、変成作用

隠岐島後東部に環状に露出する隠岐片麻岩は,古原生代(約1800 Ma前後)の砂~泥質岩や花崗岩類を原岩として,約240 Maに低P/T型変成作用を受けた準片麻岩および正片麻岩からなり(Tsutsumi et al., 2006; Cho et al., 2012),朝鮮半島の先カンブリア基盤(嶺南地塊や京畿地塊)との関係や,ペルム~三畳紀以降の東アジアのテクトニクスを考えるうえで重要な位置づけを持つ.本研究では隠岐片麻岩の分布全域(北部:飯美,中村川,南部:銚子,東郷,大久)の野外調査とミグマタイト質片麻岩の岩石学的解析の結果をもとに,高度変成作用の広がりと部分溶融の条件を検討した. 新生代火山活動に伴う構造改変は大きいが,隠岐片麻岩の主要な面構造(片麻状構造)の方位は大局的には東西走向で南または北傾斜である.ミグマタイト化に伴うプチグマティック褶曲を除くと,延性変形の重複関係を認識できる露頭は少なく,主要面構造は単一の変形段階と考えられる.ミグマタイト質片麻岩には片麻状構造と調和的な優白質部のほかに,優白質花崗岩の非調和岩脈が普遍的にみられる.アルミナ質泥岩起源の片麻岩のピーク時の鉱物共生は,ざくろ石+黒雲母+珪線石±菫青石+斜長石+石英+チタン鉄鉱+ルチル+石墨であり,南部ではこれに鉄亜鉛スピネルが加わる.優白質部に珪線石を包有する自形の紅柱石を含むことがあり,降温期にメルトから晶出した可能性がある.ざくろ石の結晶は拡散により組成が均質化しており,基質の黒雲母と接する縁部のみMnが急増する逆累帯構造を示し,CaOは1 wt%前後でほぼ一定である.しかし,北部では稀に同一薄片内にコアのCaOが4.5 wt%に達し,成長累帯構造を残すざくろ石斑状変晶が混在する.ピーク温度推定のため,ルチル+石英と共存する黒雲母のTi量とジルコン+石英と共存するルチルのZr量を用いた温度計を適用した.高Ti黒雲母(最高5.6 wt% TiO2)は基質の単結晶石英または斜長石中の微小包有物として存在し,760℃に達する高温を示唆する.高Ti黒雲母はざくろ石中の包有物として産することもあるが,基質中のものに比べMg#が高く,降温期もホストのざくろ石とのFe–Mg交換反応が継続したことを示す.基質の片麻状構造に沿って配列する粗粒板状の黒雲母は低Tiで,低Zrルチルを伴い,~650–550℃までの降温期に延性変形が起こったことを示す.ルチルはクラックを伴わないざくろ石中の包有物に限り,高Zr(1200–1700 ppm)を保持し,~750–780℃の高温条件が推定される.単結晶石英または斜長石中の高Ti黒雲母と均質なざくろ石コア組成がピーク温度時に平衡であったと仮定して,ざくろ石‐黒雲母温度計およびざくろ石‐黒雲母‐斜長石‐石英圧力計を適用すると各地域の試料から~0.42–0.60 GPa, 760–780℃の条件が推定され,南部の試料がより低圧を示す.このような低P/T条件で部分溶融が起こったとすると,南部にみられる菫青石,ざくろ石,スピネルの共存を説明できる.高Ti黒雲母の普遍性から,上部角閃岩-グラニュライト遷移相の高度変成作用は全域に及んでいることが明確になったが,北部にみられる高Caざくろ石の持つ意味(中圧型変成ステージの存否)はさらなる検討が必要である.本研究および既存の年代学的研究を統合すると,隠岐片麻岩は,古原生代の大陸基盤が,約240 Maの熱イベントにより中部地殻深度(約15–20 km)における部分溶融,延性変形および低P/T型変成作用を受けたものと考えられる.