日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP32] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2019年5月30日(木) 09:00 〜 10:30 301B (3F)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、座長:中村 佳博(産総研)、針金 由美子(産総研)

09:45 〜 10:00

[SMP32-22] 南西インド洋海嶺Marion transform断層において採取された変形かんらん岩の構造岩石学的特徴

*柿畑 優季1道林 克禎2Dick Henry3 (1.静岡大学大学院総合科学技術研究科、2.名古屋大学大学院環境学研究科、3.ウッズホール海洋研究所)

キーワード:トランスフォーム断層、かんらん岩、変形機構

南西インド洋海嶺は超低速拡大海嶺(1.4 mm/yr)であり,マントルの湧昇による熱の供給が少なく相対的に冷却の影響が大きくなることから,玄武岩質の薄い地殻が部分的に形成されるのみで海底に直接かんらん岩が露出している.南西インド洋海嶺に存在するMarion transform断層では1980年代以降ドレッジ調査が行われており,玄武岩や斑れい岩,かんらん岩が採取されてきた.

本研究では,1983年のPROTEA.5航海でMarion transform断層において採取されたかんらん岩7試料を用い,微細構造発達について考察を行った.かんらん岩試料はかんらん石,直方輝石,単斜輝石及び少量の角閃石,斜長石,緑泥石からなり,二次鉱物として蛇紋石や磁鉄鉱を含んでいた.かんらん岩は微細構造に基づいて,大部分が3-5 µmの極めて細粒な粒子からなるウルトラマイロナイト(2試料)と,変形した粗粒結晶と細粒化が進行して形成された基質からなる不均質な組織のテクトナイト(5試料)の2グループに分けられた.ウルトラマイロナイト中の3-5 µmの細粒は丸みを帯びており,一部に15 µm程度の比較的粗粒な伸長した粒子が見られた.一方不均質な組織のテクトナイトの基質中の粒子は多角形か不規則に伸長していた.どちらのかんらん岩にも亜粒界を伴うかんらん石粒子が存在し,相の混合が生じていた.かんらん石のMg#は89.5-91.2,スピネルのCr#は17.1-33.9であり,非常に肥沃な組成からやや枯渇した組成であった.角閃石はtremolite,magnesio-hornblende及びpargasiteの組成を示した.

ウルトラマイロナイト中には強く変形した角閃石粒子が含まれる一方,不均質な組織のテクトナイト中の角閃石は未変形なものから強く変形したものまで存在した.また,かんらん石の結晶方位ファブリックは,変形した角閃石を含む試料ではBタイプまたはEタイプであった.Bタイプ,Eタイプファブリックは水の存在下で形成されることが示されている.したがって本研究により,Marion transform断層下の上部マントルは剪断変形時に水の影響を強く受けていることが示される.更に,不均質な組織のテクトナイト中のかんらん石は粒子内歪が小さく,結晶方位の集中が見られない一方,ウルトラマイロナイト中では粒子内歪はやや大きく,結晶方位の明らかな集中が見られた.以上に基づくと,トランスフォーム断層下では,温度の低下と細粒化により不均質な組織のテクトナイトが形成され,更に温度低下と変形が進行することでウルトラマイロナイトが形成されたと考えられる.また,テクトナイトの細粒基質は主に粒界すべりと拡散クリープで,ウルトラマイロナイトは主に転位クリープで変形したことが示唆される.