日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP32] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2019年5月29日(水) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 8ホール)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

[SMP32-P16] 透過菊池回折によるウルトラマイロナイト中のオリビン結晶方位解析:EBSDの微小部への拡張

*伊神 洋平1道林 克禎2柿畑 優季2纐纈 佑衣2 (1.名古屋大学 未来材料・システム研究所、2.名古屋大学 環境学研究科)

キーワード:電子線後方散乱回折法、透過菊池回折法、結晶選択配向、ウルトラマイロナイト、かんらん岩

マントルは地球全体の80%以上を占めており、地球内部における物質循環や地球の形成史を理解する上で重要な領域である。そのうち上部マントル層の主要構成物質はかんらん岩であり、オリビン([Mg,Fe]2SiO4、かんらん石)粒子の集合体である。オリビンは斜方晶系の結晶で力学的にも異方性を示すため、かんらん岩が剪断的な変形作用を受けた際に含水量や差応力などを反映して様々パターンでの選択配向を示す(Karato et al., 2008)。この配向パターンはかんらん岩の変形場について理解するための重要な指標となる上に、バルクでの地震波異方性推定のためのパラメータにもなるため、マントルの物質科学において大変重要な意味を持つ情報である。
オリビンの配向パターンの解析には現在、ほとんどの場合で走査型電子顕微鏡および電子線後方散乱回折検出器(SEM-EBSD)による方位マッピングが用いられている。EBSDは試料表面から形成される菊池パターンを解析する手法で、現在では自動でのデータ取得・方位決定が可能なハード・ソフトウェアが充実している。そのため様々な地域で採取されたカンラン岩中のオリビン配向パターンのデータが蓄積されてきた。しかし、オリビンの粒径がミクロンオーダー以下となってくると明瞭なEBSDパターン取得が難化することもあって、構造地質学の議論の上ではサブミクロン~ナノ領域の粒子の影響は見過ごされてきたことも多い。
一方、菊池パターンを得る際には、試料を100nm程度の薄膜にすることで、試料内での電子線の広がりが抑えられて空間分解能の向上が可能である(Keller and Geiss, 2011)。これは、透過菊池回折法(TKD)と呼ばれる手法で、EBSDの検出器や自動解析環境をそのまま使うことができるという利点も持つ。そこで本研究では、構造地質学のサブマイクロオーダー粒子の解析への展開を念頭に、TKD法によるウルトラマイロナイト中のオリビン配向解析を試みた。ウルトラマイロナイトは強い剪断応力を受けて、数μmからそれ以下の粒子の多結晶体となったカンラン岩であり、より詳細な変形プロセス理解が望まれている。
試料は、PROTEA5航海での調査で得られたMarionトランスフォーム断層のウルトラマイロナイトを用いた。SEM観察によれば、当試料はオリビンや角閃石の斑晶および細粒粒子のマトリックスで構成され、その他には直方輝石やクロムスピネルも確認される (Kakihata et al., 2018, AGU)。この試料に対し、SEM-EBSDにより方位解析を試みたのち、FIB (HITACHI FB2100)を用いて、オリビン細粒結晶領域を切り出して薄膜化し、TKD解析を行った。EBSDおよびTKDでは同じSEM-EBSDシステム(HITACH, S-3400N + OXFORD Instruments, NordlysNano)を用いた。
実験の結果、ウルトラマイロナイトのTKDデータの取得に成功し、サブミクロンの粒子同士の粒界まで識別エラー無く方位同定された。WフィラメントのSEMを用いたにもかかわらず、同試料の薄片に対するFESEM-EBSDでの解析よりも高い空間分解能を有したデータが得られた。得られたTKDマップデータに対してはEBSD同様の統計解析システムを用い、三宅ら(2016, 鉱物科学会)の提案による設定を行うことで方位マップが得られ、細粒オリビンのb軸が剪断面構造に対して垂直の選択配向を示すことが分かった。また、いびつな形状の粒子の存在や、亜粒界により連なるような粒子の存在も可視化された。本研究で用いたTKD法は、TEM分析ほどの空間分解能には至らないものの、薄膜試料全体の方位解析における労力はとても小さく、TEM分析の事前準備としての活用は効果的である。今後、TKD法の活用により、これまで分析が困難であったカンラン岩中の細粒粒子の力学的影響の研究が促進されると考えられる。