日本地球惑星科学連合2019年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP33] 鉱物の物理化学

2019年5月29日(水) 10:45 〜 12:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)、鹿山 雅裕(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:鹿山 雅裕(東北大学)

11:00 〜 11:15

[SMP33-08] 硫化鉄ナノ粒子の粒成長に伴う非晶質から結晶質への相変化プロセス

*佐野 喜成1興野 純2米田 安宏3山本 弦一郎1 (1.筑波大学生命環境科学研究科、2.筑波大学生命環境系、3.日本原子力研究開発機構)

キーワード:原子2体相関関数、硫化鉄ナノ粒子、マッキナワイト

1. はじめに
 嫌気的な海底堆積物の間隙水中では,硫酸還元細菌 (SRB) が海水由来の硫酸イオン (SO42-) を硫化物イオン (S2-) に還元することで生命活動に必要な代謝を行っている.さらに,硫化物イオンが硫黄細菌 (SB) によって硫黄 (S0) から硫酸イオンまで段階的に酸化されることで,地球化学的な硫黄元素の循環 (硫黄サイクル) が成り立っている.この一連の反応において,環境中に放出される硫化物イオンの一部が二価の鉄イオン (Fe2+) と容易に反応して硫化鉄のナノ粒子 (FeS) が生成され,それらがより安定なマッキナワイト (FeS) に成長する.先行研究では,120oCの熱水中において硫化鉄ナノ粒子がマッキナワイトへ成長することが報告されており (Csákberényi-Malasics et al., 2012),硫化鉄ナノ粒子はマッキナワイトの前駆物質として重要視されているが,その結晶構造と粒成長のプロセスは未だ明らかにされていない.そこで本研究では,硫化鉄ナノ粒子の粒成長に伴う非晶質から結晶質への構造変化プロセスを解明することを目的として,放射光X線全散乱測定による原子2体相関関数 (atomic Pair Distribution Function: PDF) 解析を行った.
2. 実験方法
 はじめに,0.2 Mの(NH4)2Fe(SO4)2・6H2O水溶液10 mLと0.4 MのNa2S・9H2O水溶液10 mLを窒素ガス雰囲気下で混合することで,硫化鉄ナノ粒子の黒色懸濁液を合成し,120oCに設定された電気炉内でそれぞれ2,4,6,8,12時間加熱を行った.得られた固相は窒素ガスを吹き付けて乾燥させた後,真空デシケーター内で保存した.放射光X線全散乱測定は,SPring-8のBL14B1で実施した.用いたX線の波長はλ= 0.20606 Å,測定範囲は0≦Q (Å-1)≦25,測定温度は20 K及び300 Kとし,得られたX線全散乱データに対して原子2体相関関数 (PDF) 解析を行った.
3. 結果と考察
 非加熱の試料において,PDFパターンの周期的な振動は約2 nmでほぼ消滅していたのに対し,加熱2,4,6,8,12時間の試料では,周期的な振動が約4 nmまで続いていた.したがって,硫化鉄ナノ粒子は加熱によって約2倍の粒子サイズに成長した.また,PDFパターンから示されたFe-S結合距離は2.25 Å,Fe-Fe原子間距離は2.65 Åであり,加熱による変化はほとんど見られない.すなわち,加熱によって硫化鉄ナノ粒子が粒成長する過程では,FeS4四面体の局所構造はほぼ維持されることが明らかになった.そして,マッキナワイトのモデル構造との比較から,硫化鉄ナノ粒子ではFeS4四面体の配列に歪みが生じていることが示唆された.この結果は,先行研究によって提案された硫化鉄ナノ粒子のモデル構造と調和的である (Wolthers et al., 2003; Ohfuji and Rickard, 2006; Jeong et al., 2008).発表では,硫化鉄ナノ粒子の中距離構造の解析結果や粒成長による構造変化に加えて,20 Kと300 KでのPDFパターンの比較に関して詳細に議論する.