[S-MP33] 鉱物の物理化学

[SMP33-09] Fe-S-O系メルト微粒子の急冷による組織形成過程

*磯部 博志¹ (1.熊本大学大学院先端科学研究部基礎科学領域)

キーワード：硫化鉄、磁鉄鉱、急冷結晶、微粒子、樹枝状結晶

鉱物の微細組織は，その形成過程における結晶成長場の物理化学的及び速度論的条件を記録している。組織形成過程においては，ローカルな結晶成長過程と，それに伴う物質の移動挙動，及び結晶成長場の地球化学的条件が重要な役割を果たす場合がある。特に，鉄や硫黄を主成分とする系は，酸化還元や揮発現象に鋭敏に影響される。さらに，微細な粒子においては極めて速い温度変化が起こりうるため，急冷による結晶成長挙動が鉱物の組織形成及びそれに伴う物質移動を規定する可能性がある。本研究では，高温炉中で微粒子を自由落下させる実験系（Isobe and Gondo, 2013）を用いて，多様な酸化還元条件においてFe-S-O系微粒子の急加熱・急冷実験を行い，酸化を伴うメルト微粒子の急冷過程における硫化鉄及び酸化鉄結晶の組織形成過程とそこで起こる現象について検討した。

　試料には，FeS試薬を粉砕して作成した径約100µmの不定形粒子を用いた。出発物質は純粋なFeSではなく，酸化鉄及び金属鉄相を含む。本実験では，粒子はおよそ2秒以内に最高温度である約1600ºCに達し，その後急冷される。酸素分圧は，FMQ -0.5，+0.9または+2.4 log unitとした。実験生成物は，走査電子顕微鏡による外形及び粒子内部組織の観察を行い，酸素量の半定量分析を含む組成分析を行った。

　実験生成物粒子のほとんどは，完全な溶融状態を経たことを示す外形を示している。出発物質粒子の組成不均質および酸化の進行により，酸化鉄に富む組成となった粒子は，粒子全体にわたって一定方位の磁鉄鉱結晶が格子状構造体を作っているものがある。また，粒子表面に放射状の樹枝状構造を持つ磁鉄鉱結晶が存在するものもある。硫黄に富む粒子内部では，硫化鉄が樹枝状急冷結晶として成長しているものがある。硫化鉄結晶が成長している粒子では，結晶粒間メルト組成は硫黄に乏しく，磁鉄鉱結晶が急冷結晶として成長している粒子では結晶粒間メルトは硫黄に富む。従って，還元条件のために酸化が進まず，硫黄に富むメルトの冷却過程においては硫黄の揮発が抑制され，リキダス相として磁鉄鉱結晶が晶出する組成まで酸化が進んだ場合は，硫黄の揮発が促進されると考えられる。